小規模企業共済とiDeCo、受け取る順番で変わる退職所得控除

【この記事でわかること】
・小規模企業共済とiDeCoの一時金が、同じ「退職所得」として扱われる理由
・iDeCoが先か、小規模企業共済が先かで変わる「重複調整でさかのぼる期間」
・同じ年に受け取るときの勤続年数の数え方(具体的な計算例は別記事で解説)

個人事業主や小規模企業の役員の方なら、「老後資金は小規模企業共済とiDeCoの二本立て」という人は多いと思います。掛金を払っている間は、どちらも所得控除で税金が軽くなる心強い制度です。
ところが、出口(受け取り)になると急に難しくなります。「どちらを先に受け取るか」で、あとから受け取る一時金の退職所得控除が小さくなる場合があるからです。
この記事では、国税庁・財務省・中小機構の公式資料だけを根拠に、順番ごとの「重複調整でさかのぼる期間」を整理します。個別の有利不利の判断には踏み込まず、ルールの読み方に絞ります。
📌 小規模企業共済もiDeCoも「退職所得」で受け取れる
まず前提です。小規模企業共済の共済金を一括で受け取ると、税法上は退職所得扱いになります(中小機構「共済金等請求・解約」)。
iDeCoの老齢給付金として支給される一時金も、国税庁は退職所得とみなされると説明しています(国税庁 No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)・令和8年4月1日現在法令等)。
つまり、どちらの一時金も「退職金」と同じ計算ルールの土俵に乗ります。退職所得は、次の式で計算します。
(収入金額 - 退職所得控除額)× 1/2 = 退職所得の金額
退職所得控除額は、勤続年数(iDeCoなら加入期間、小規模企業共済なら加入していた期間)によって決まります。
| 勤続年数(A) | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円 × A(80万円に満たない場合は80万円) |
| 20年超 | 800万円 + 70万円 ×(A - 20年) |
出典:国税庁 No.1420(令和8年4月1日現在法令等)
この控除は、本来は「一つの勤続期間につき一回」使うものです。そこで、同じ期間をもとにした一時金を何度も受け取って控除を二重に使えないよう、勤続期間が重なっている部分は控除から差し引く「重複排除」の仕組みがあります。ここが「受け取る順番」の話の正体です。
🔑 順番別の早見表|重複調整でさかのぼる期間はこう違う
国税庁の資料に沿って、順番ごとに「あとから受け取る一時金が、前の一時金と重なっていないかをさかのぼる期間」を並べました。
| 受け取る順番 | 重複調整でさかのぼる期間 | 令和8年1月1日の改正 |
|---|---|---|
| iDeCoが先、小規模企業共済があと | 小規模企業共済を受け取る年の前年以前9年内にiDeCoの一時金を受け取っていると、重複調整の対象 | 4年内から9年内に延長(令和8年1月1日以後に受け取ったiDeCoの一時金が対象) |
| 小規模企業共済が先、iDeCoがあと | iDeCoの一時金を受け取る年の前年以前19年内に退職手当等を受け取っていると、重複調整の対象 | 改正の対象として挙げられていない |
| 同じ年に両方を受け取る | 勤続期間を通算して勤続年数を数え、あとから受け取るほうで精算 | 通常のルール(改正の対象外) |
出典:国税庁 No.2735 同じ年に2か所以上から退職手当等が支払われるとき、国税庁 令和8年分 源泉所得税の改正などのあらまし、財務省 令和7年度税制改正の大綱(PDF)
ポイントは、iDeCoが先の場合だけ、令和8年(2026年)からさかのぼる期間が長くなったことです。財務省の大綱では、老齢一時金(iDeCoなどの一時金)を受け取った年の翌年以降に退職手当等を受け取る場合の期間が、前年以前9年内(従来は4年内)に延長されたと整理されています。
なお、iDeCoの一時金を令和7年(2025年)までに受け取っている場合は、従来どおり前年以前4年内が基本です(No.2735の記載による)。令和8年1月1日をまたぐかどうかで、数える期間が変わる点に注意してください。受け取る年の間隔については、iDeCoと退職金は何年空ける?2026年10年ルールを解説でも整理しています。
📝 重複したら控除額はどう計算される?
勤続期間の重なりがあるとき、国税庁は次のように説明しています(No.2735)。
- 本年に受け取る退職手当等の勤続年数から、通常どおり退職所得控除額を計算する
- 前の退職手当等と重なっている期間(1年未満の端数は切り捨て)を勤続年数とみなして、同じ式で控除額相当額を計算する
- 1の控除額から2の控除額相当額を差し引いた残りが、本年の退職所得控除額になる
つまり、重なりが大きいほど、あとから受け取る一時金の控除額は小さくなります。

もう一つ、重複調整の対象になる「前の退職手当等」には、収入金額が少ないときの特例があります。前の退職手当等の収入金額が、重複調整を使わずに計算した退職所得控除額に満たないとき、次の式で出した年数を「前の勤続期間」とみなす、というものです(所得税法施行令70条2項)。東京国税局の文書回答事例は、個人型DC一時金を受け取る場合の説明です。
| 前の退職手当等の収入金額 | みなす年数の算式 |
|---|---|
| 800万円以下の場合 | 前の退職手当等の収入金額 ÷ 40万円 |
| 800万円を超える場合 | (前の退職手当等の収入金額 - 800万円)÷ 70万円 + 20 |
出典:東京国税局 文書回答事例「前の退職手当等が同一年に複数ある場合の退職所得控除額の計算の特例について」(表2)
この特例は、前に受け取った金額が小さい人ほど、重なりとして数える期間が短くなる仕組みです。実際の年数の端数処理など細かい計算は、必ず税務署・税理士に確認してください。
🧮 同じ年に受け取るとき|勤続期間はつなげて数える
同じ年に2か所以上から退職手当等を受け取る場合、受け取る人は「退職所得の受給に関する申告書」を支払者に出します。すでに別の支払者から受け取っているときは、その支払者の「退職所得の源泉徴収票」を添付します(国税庁 No.2735)。
同じ年に受け取るときは、勤続期間を別々にせず、ひとつにつなげて数えます(1年に満たない端数は1年に切り上げます)。国税庁が示す会社2社の具体的な計算例(A社の退職金400万円・B社180万円の場合)は、iDeCoと退職金、同じ年に受け取ると控除はどうなる?で、数字を追って解説しています。小規模企業共済やiDeCoの一時金は退職手当等として扱われるため、同じ考え方で整理できます。
💡 一括・分割・解約|受け取り方で税法上の扱いが変わる
小規模企業共済は、受け取り方や事由によって所得の種類が変わります。中小機構の表を、この記事に関係する部分だけ抜き出しました。
| 共済金等の受け取り方 | 税法上の取扱い |
|---|---|
| 共済金(死亡除く)を一括で受け取る | 退職所得扱い |
| 共済金を分割で受け取る | 公的年金等の雑所得扱い |
| 一括と分割を併用する | 一括分は退職所得、分割分は公的年金等の雑所得 |
| 65歳以上で任意解約をする | 退職所得扱い |
| 65歳未満で任意解約をする | 一時所得扱い |
出典:中小機構「共済金等請求・解約」(2026-10-04確認)
この記事で扱ってきた退職所得控除の重複調整は、「退職手当等」として受け取る分が対象の話です。分割で受け取る部分は雑所得なので、同じ枠組みでは語れません。分割や併用を選んだ場合の細かい扱いは、今回確認した資料では詳しく書かれていませんでした。
⚠️ 順番の「得」「損」は、この記事では判断しません
どちらを先に受け取るかは、加入期間・受け取る金額・ほかの退職金の有無・受け取る年などで結果が変わります。この記事は国の公式資料に書かれたルールの紹介までです。実際の判断は、税務署や税理士など専門家にご相談ください。

🙋 よくある質問
Q1. 小規模企業共済はいつから受け取れますか?
中小機構によると、個人事業主の場合、共済金Aは個人事業を廃業した場合などが請求事由です。共済金Bは、65歳以上で180か月以上掛金を払い込んだ方が対象で、仕事を続けたまま請求できます(中小機構)。事由ごとに条件が異なるため、必ず公式ページで確認してください。
Q2. 2025年中にiDeCoを受け取り済みです。9年内になりますか?
No.2735では、令和8年1月1日より前に受け取った退職手当等は、前年以前4年内のものが対象と書かれています。9年内に延長されたのは、令和8年1月1日以後にiDeCoなどの一時金を受け取った場合です。
Q3. 掛金を払っている間の税金はどうなりますか?
小規模企業共済の掛金は、全額が「小規模企業共済等掛金控除」として所得控除の対象です(国税庁 No.1135)。出口の税金は、この記事で見たように受け取り方で変わります。
✅ この記事のポイント
- 小規模企業共済の共済金(一括)もiDeCoの一時金も、税法上は退職所得として扱われる
- iDeCoが先なら前年以前9年内(令和8年1月1日以後に受け取った一時金が対象)、小規模企業共済が先なら前年以前19年内が重複調整の対象
- 同じ年に受け取る場合は、勤続期間をつなげて数え、1年未満は切り上げる
- 分割受け取りや65歳未満の任意解約は、退職所得とは別の扱いになる
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🌱 まとめ
小規模企業共済とiDeCoは、どちらも退職所得として受け取れる心強い制度です。ただ、受け取る順番によって、重複調整でさかのぼる期間(前年以前9年内か19年内か)が変わる点は、事前に知っておく価値があります。
元国税職員として制度を読むときは、「何年内に」「何を」「どちらが先か」の3点を先に押さえます。公的な制度の出口は、誰も代わりに調べてくれません。自分で学ばないと、だれも教えてくれないからこそ、このブログをきっかけに学ぼうと思っていただけると嬉しいです。
次回は「退職所得の受給に関する申告書の書き方|出さないと20.42%、出し忘れの戻し方」について解説予定です。お楽しみに!


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