iDeCoと退職金、同じ年に受け取ると控除はどうなる?
【この記事でわかること】
・会社の退職金とiDeCo・企業型DCの一時金を同じ年に受け取ると、控除がどう計算されるか
・「重複しない期間」だけを上乗せする通算ルールのしくみ
・国税庁の公式計算例で見る、実際の控除額・税額の変化
・「別の年」に受け取る場合の10年ルールとの違い
「今年、会社の退職金と一緒にiDeCoの一時金も受け取ったんだけど、控除って2つ分もらえるの?」——先日、退職を控えた読者の方からこんな質問をいただきました。
結論から言うと、単純に2つ分の控除をまるごと使えるわけではありません。国税庁のルールでは、同じ年に2か所以上から退職手当等(会社の退職金・iDeCo・企業型DCの老齢一時金など)を受け取る場合、勤続期間・加入期間を「重複しない部分」だけ上乗せする形で通算する決まりになっています。
私は元国税職員として、まさにこうした退職所得の計算を仕事にしていました。今回は、国税庁の公式計算例をもとに、同じ年に複数の退職手当等を受け取ったときの控除の考え方を、実務目線でやさしく整理します。
📌 「同じ年に2か所からもらう」ってどんなケース?
まず押さえておきたいのは、税法上「退職手当等」として扱われるのは会社から支給される退職金だけではないという点です。iDeCo(個人型確定拠出年金)や企業型DCの老齢一時金も、法律上は退職金と同じ「退職手当等とみなす一時金」として扱われます(出典:所得税法第31条三号・所得税法施行令第72条七号)。
そのため、次のようなケースはすべて「同じ年に2か所以上から退職手当等を受け取る」場合に該当します。
- 60歳で会社を定年退職し、同じ年にiDeCoの老齢一時金も受け取った
- 会社の退職金と、企業型DCの一時金を同じ年にまとめて受け取った
- 転職に伴い、旧勤務先の退職金と新勤務先のDC一時金が同じ年に重なった
🔍 控除はどう計算される?重複排除の3ステップ
国税庁タックスアンサーNo.2735「同じ年に2か所以上から退職手当等が支払われるとき」によると、計算は次の3ステップで行います。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| ① 収入の合算 | 受け取ったすべての退職手当等の金額を合計する |
| ② 勤続年数の通算 | 各退職手当等の勤続期間(DCは加入期間)のうち最も長い期間を基礎とし、それと重複しない部分だけを上乗せする(1年未満は切り上げ) |
| ③ 控除額・課税所得の計算 | 通算した勤続年数で退職所得控除額を計算し、(収入合計-控除額)×1/2で課税退職所得を求める |
ポイントは②です。2つの勤続期間・加入期間を単純に足し算するわけではありません。すでに重なっている部分は「二重取り」できないよう、はみ出した部分だけを追加する仕組みになっています。
🧮 国税庁の公式計算例で見てみる
国税庁の公式ページには、実際にこのルールをどう使うかの具体例が掲載されています(数値はそのまま引用し、私のほうで検算して一致を確認済みです)。
📅 タイムラインで見る(甲さんの例・令和7年)
A社から400万円
B社から180万円
| 項目 | A社(1か所目) | B社(2か所目・合算精算) |
|---|---|---|
| 勤続期間 | 平成28年4月〜令和7年3月(9年) | 平成30年4月〜令和7年7月(7年4か月) |
| 支給額 | 400万円 | 180万円 |
| 通算後の勤続年数 | 9年 | 最古の就職日〜最後の退職日=9年4か月→10年(切り上げ) |
| 退職所得控除額 | 40万円×9年=360万円 | 40万円×10年=400万円 |
| 課税退職所得金額 | (400万円-360万円)×1/2=20万円 | {(400万円+180万円)-400万円}×1/2=90万円 |
| 源泉徴収税額 | 20万円×5%×102.1%=10,210円 | 90万円×5%×102.1%-10,210円=35,735円 |
出典:国税庁タックスアンサー No.2735「同じ年に2か所以上から退職手当等が支払われるとき」(nta.go.jp)の公式設例をそのまま掲載
この例はどちらも「会社の退職金」として国税庁が示したものですが、iDeCo・企業型DCの老齢一時金も同じ計算方法がそのまま適用されます。たとえばB社の180万円がiDeCoの一時金だったとしても、控除額・課税所得の計算式はまったく同じです(根拠:所得税法第31条三号・施行令第72条七号)。
大事なのは、控除がゼロになるわけではないということです。この例でも400万円の控除枠はきちんと確保されており、「2つ分もらえないから損」というより「重複しない範囲でしっかり積み増しされる」というのが実態に近い理解です。
2か所目の支払者(上記の例ではB社)にきちんと申告書と1か所目の源泉徴収票を提出すれば、上記のように過不足なく精算してもらえます。提出を忘れると、合算精算が行われず一律20.42%(所得税20%+復興特別所得税0.42%)が源泉徴収され、後で確定申告して還付を受ける手間が発生します。
⚖️ 「別の年」に受け取る場合との違い
ここで混同しやすいのが、以前の記事でも解説した「iDeCo一時金を先に受け取り、別の年に退職金を受け取る」場合のルールです。こちらは2026年1月から適用期間が「前年以前4年内」から「前年以前9年内」に延長された、いわゆる10年ルールが関係します。
| 受け取り方 | 適用されるルール |
|---|---|
| 同じ年に2か所以上から受け取る(本記事のテーマ) | 勤続期間・加入期間を通算する重複排除ルール(今回改正なし・従来からの一般ルール) |
| 別の年に間隔を空けて受け取る | 前年以前4年内→9年内に延長される「10年ルール」(2026年1月1日施行) |
「同じ年」か「別の年」かで、参照すべきルールがまったく違います。10年ルールの詳しい計算方法や具体例は、以前の記事で詳しく解説していますのであわせてご覧ください。
✅ この記事のポイント
- iDeCo・企業型DCの老齢一時金も、税法上は会社の退職金と同じ「退職手当等」として扱われる
- 同じ年に2か所以上から受け取る場合、勤続期間・加入期間は単純合算ではなく「重複しない部分」だけを上乗せして通算する
- 国税庁の公式例では、通算後も400万円の控除枠がきちんと確保される(控除がゼロになるわけではない)
- 2か所目の支払者には必ず「退職所得の受給に関する申告書」と1か所目の源泉徴収票を提出する(忘れると一律20.42%源泉徴収)
- 「別の年」に受け取る場合は2026年1月施行の10年ルールが別途関係する(本記事のテーマとは異なる論点)
まとめ
会社の退職金とiDeCo・企業型DCの一時金を同じ年に受け取っても、控除がまるごと消えてしまうわけではありません。国税庁のルールに沿って「重複しない期間」を積み増す形で、きちんと控除枠が計算されます。ただし、申告書の提出漏れがあると一律20.42%の源泉徴収になってしまうため、複数の支払先がある場合は忘れずに手続きしておきましょう。
自分で学ばないと、だれも教えてくれないからこのブログをきっかけに学ぼうと思っていただけると嬉しいです。
次回は「国民年金の第3号被保険者制度の見直し」について解説予定です。お楽しみに!


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