事業承継税制 個人版・法人版の違い一覧|期限と免除条件

【この記事でわかること】
・事業承継税制が「納税猶予」であり、どんなときに免除されるのか
・個人版と法人版の違い(対象・期限・手続)を1枚の表で
・贈与者が亡くなったとき・後継者が亡くなったときの扱い
・農地の納税猶予との違い

「親の会社の株を子に渡したら、贈与税がとても払えない金額になるのでは」「個人事業の店舗と土地を引き継ぎたいが、相続税をどう用意すればいいのか」。事業を営むご家庭では、こうした不安を抱える方は少なくないはずです。
その不安に応える制度が事業承継税制です。ただ、法人向けの「法人版」と個人事業主向けの「個人版」があり、期限も要件も免除の条件も違うため、国税庁のパンフレットを読んでも全体像がつかみにくいのが実情です。
元国税職員として、最初に一つだけお伝えします。この制度の「猶予」は、税金が消えるという意味ではありません。払うのを待ってもらい、一定の条件に当てはまったときに初めて免除される仕組みです。この記事では「どんなときに免除されるのか」を軸に、個人版と法人版を一覧で整理します。
なお、本記事は2026年10月時点で国税庁が公表している資料(令和8年7月版パンフレットなど)をもとにしています。
事業承継税制とは?「払わなくていい」ではなく「払うのを待ってもらう」制度
事業承継税制は、事業を引き継ぐ後継者が、先代から贈与や相続で事業用の財産を受け取ったとき、その贈与税・相続税の納税を猶予し、後継者の死亡など一定の事由が生じたときに納付を免除する制度です(国税庁パンフレット(法人版)・同(個人版))。
📅 制度の流れ
贈与・相続で事業用の財産を取得
申告書の提出と担保の提供
要件を守る間は納税を猶予
後継者の死亡など一定の事由で免除
承継する財産によって、制度は2つに分かれます。
- 法人版:非上場会社の株式等を承継する(円滑化法の認定を受けた会社が対象)
- 個人版:青色申告に係る事業の事業用資産(宅地等・建物・機械など)を承継する
どちらも「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(円滑化法)」に基づき、都道府県知事の認定を受けることが入口になります。
個人版と法人版の違いを1枚の表で(2026年10月時点)
| 比較項目 | 法人版(特例措置) | 個人版 |
|---|---|---|
| 承継する財産 | 非上場株式等 | 特定事業用資産(宅地等は400㎡まで、建物は床面積800㎡まで、そのほか一定の減価償却資産) |
| 対象になる会社・事業 | 円滑化法の認定を受けた非上場の中小企業。上場会社・資産管理会社(一定の要件を満たすものを除く)・風俗営業会社は対象外 | 青色申告(正規の簿記の原則によるもの)に係る事業。不動産貸付業等は除く。資産管理事業・性風俗関連特殊営業は対象外 |
| 計画の提出期限(2026年に延長) | 特例承継計画:2027年9月30日まで | 個人事業承継計画:2028年9月30日まで |
| 贈与・相続の適用期間 | 2018年1月1日から2027年12月31日まで | 2019年1月1日から2028年12月31日まで |
| 猶予される税額 | 全株式が対象で、納税猶予割合は100%(特例措置) | 特定事業用資産に対応する贈与税・相続税の全額 |
| 後継者が複数のとき | 複数の株主から最大3人の後継者まで | 宅地等・建物の面積は、後継者が取得した分の合計で判定 |
| 後継者側の主な要件 | 会社の代表権を有していること、議決権数の要件(後継者と特別の関係がある者で総議決権数の50%超など) | 事業に従事していたこと、開業届出書の提出と青色申告の承認(相続は承認を受ける見込みを含む) |
| 継続届出書 | 最初の5年間(承継期間)は毎年、その後は3年ごと。承継期間中は都道府県知事への年次報告書も毎年 | 3年ごと |
| 事業継続が困難な ときの差額免除 |
あり(特例措置のみ。承継期間の経過後) | あり |
出典:国税庁法人版事業承継税制・個人版事業承継税制の各パンフレット(令和8年7月)、財務省令和8年度税制改正の解説(計画の提出期限)。法人版には「一般措置」もあります(詳しくは法人版の詳細記事で解説します)。
手続の流れ|いつ・どこへ・何を出す?
📅 手続のタイムライン
都道府県知事へ
株式・事業用資産を取得
都道府県知事へ
税務署へ
猶予が続く間、税務署へ
| 手続 | 提出先 | 期限・頻度 |
|---|---|---|
| 特例承継計画(法人版)/個人事業承継計画(個人版) | 都道府県知事 | 2027年9月30日まで(法人版)/2028年9月30日まで(個人版)。贈与・相続の後でも、円滑化法の認定を申請する時までは提出できる |
| 円滑化法の認定の申請 | 都道府県知事 | 贈与:贈与を受けた年の翌年1月15日まで/相続:相続開始の日の翌日から8か月以内 |
| 贈与税・相続税の申告と担保の提供 | 税務署 | 贈与税:贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日まで/相続税:相続開始を知った日(通常は死亡日)の翌日から10か月以内 |
| 開業届出書の提出・青色申告の承認申請(個人版のみ) | 税務署 | 開業届出書:事業の開始の日(贈与の場合は贈与の日)から1か月以内。青色申告の承認申請の期限は贈与と相続で異なる(個人版の詳細記事で解説します) |
| 継続届出書 | 税務署 | 法人版:承継期間(最初の申告期限の翌日から5年)内は毎年、その後は3年ごと/個人版:3年ごと。出さないと猶予税額の全額と利子税を納めることになる |

猶予された税金は、どんなときに免除される?
ここが一番の関心事ではないでしょうか。国税庁のパンフレットが挙げる「免除される主な場合」を、個人版・法人版で並べます。
| 免除される場面 | 法人版(特例措置) | 個人版 |
|---|---|---|
| 贈与者(先代)が 亡くなったとき |
猶予中の贈与税は免除。その株式は贈与者から相続で取得したものとみなされ、贈与時の価額で相続税を計算する(要件を満たせば相続税の納税猶予を受けられる) | 猶予中の贈与税は免除。その事業用資産は相続で取得したものとみなされ、贈与時の価額で相続税を計算する(要件を満たせば相続税の納税猶予を受けられる) |
| 後継者が亡くなったとき | 猶予されている税額は免除 | 猶予されている税額は免除 |
| 後継者が次の後継者へ贈与したとき(免除対象贈与) | 承継期間内はやむを得ない理由で代表権を失った日以後、承継期間の経過後は免除対象贈与を行った場合 | 最初の申告期限等(特定申告期限)の翌日から5年を経過した後に、全ての特例事業用資産について行った場合 |
| やむを得ない 理由があるとき |
承継期間内に代表権を失ったことにやむを得ない理由がある場合は、猶予が打ち切られない | 事業を継続できなくなったことにやむを得ない理由がある場合に免除 |
| 破産手続開始の決定などがあったとき | 承継期間の経過後に、会社について破産手続開始決定などがあった場合 | 破産手続開始の決定などがあった場合 |
| 事業の継続が困難な事由が生じたとき | 特例措置のみ。承継期間の経過後に事由が生じ、会社を譲渡・解散した場合に、再計算した税額との差額を免除 | 事由が生じ、特例事業用資産の全部の譲渡や事業の廃止をした場合に、再計算した税額との差額を免除 |
「やむを得ない理由」とは、精神障害者保健福祉手帳(障害等級1級)、身体障害者手帳(障害の程度1級または2級)、要介護5のいずれかに該当することをいいます。法人版では、これらに類すると認められる事由も含まれます(国税庁パンフレット)。
💡 元国税職員のひとこと
免除の条件は、よく読むと、贈与者や後継者の死亡を除けば、事業や会社の状況が大きく変わった場合ばかりです。つまり、この制度は「承継した事業を続けること」を前提に税の支払いを待ってもらう仕組みで、途中でやめると利子税つきで納める側に回ります。
贈与者が亡くなったら?後継者が亡くなったら?
| 場面 | 税金の扱い | 手続の期限 |
|---|---|---|
| 贈与者が死亡 | 贈与税の猶予税額は免除。みなし相続財産として、贈与時の価額で相続税を計算。要件を満たせば相続税の納税猶予 | 都道府県知事の「円滑化法の確認」を相続開始後8か月以内に申請/相続税の申告は10か月以内(担保も提供)/免除届出書は法人版が10か月以内・個人版が6か月以内 |
| 後継者が死亡 | 猶予されている税額は免除 | 相続人(包括受遺者を含む)が免除届出書を、死亡の日から6か月以内に所轄の税務署長へ提出 |
出典:国税庁パンフレット(法人版・個人版)、質疑応答事例(法人版・個人版、令和7年7月7日)。
💡 適用期間より後に贈与者が亡くなった場合
贈与者の死亡に伴う相続税の納税猶予には、適用期限が設けられていません。法人版の2027年12月31日、個人版の2028年12月31日より後に贈与者が亡くなっても、要件を満たせば受けられます。特例承継計画などの再提出も不要です(国税庁質疑応答事例(法人版)の問5-7、同(個人版)の問34)。
猶予が打ち切られる(税金を納める)主な場合
猶予は、条件を守り続けることが前提です。「確定事由」に当たると、猶予されていた税額の全部または一部に利子税を加えて、その日から2か月を経過する日までに納付します(国税庁パンフレット)。
| 区分 | 法人版(特例措置) | 個人版 |
|---|---|---|
| 猶予税額の全額と 利子税を納付 |
承継期間内に株式の一部でも譲渡等をした場合(免除対象贈与を除く)/会社が資産管理会社に該当した場合(一定の要件を満たす会社を除く)/承継期間内に代表権を失った場合(やむを得ない理由を除く) | 事業を廃止した場合(やむを得ない理由・破産手続開始の決定があった一定の場合を除く)/資産管理事業・性風俗関連特殊営業に該当した場合/その年の総収入金額がゼロとなった場合/青色申告の承認が取り消された場合 |
| 一部の猶予税額と 利子税を納付 |
承継期間の経過後に、株式の一部を譲渡等した場合(譲渡等した部分に対応する税額) | 特例事業用資産が事業の用に供されなくなった場合(その部分に対応する税額)。陳腐化した資産の廃棄や、譲渡後1年以内に新たな事業用資産を取得する見込みの承認などの例外あり |
| 共通 | 継続届出書を出さなかった場合は、猶予されている贈与税・相続税の全額と利子税を納付 | 継続届出書を出さなかった場合は、猶予されている贈与税・相続税の全額と利子税を納付 |
出典:国税庁パンフレット(法人版・個人版、令和8年7月)。法人版は雇用の平均が一定の基準を下回った場合の取扱いなど、詳細は法人版の詳細記事で解説します。
利子税について、国税庁のパンフレットは「申告期限の翌日から納税猶予の期限までの日数に応じ、年3.6%の割合で計算し、各年の利子税特例基準割合が7.3%に満たない年は軽減される」と説明しています。実際の割合は国税庁のサイトで公表されます(個人版・法人版)。
法人版のパンフレットには、さらに「承継期間を経過した後に猶予税額の全部または一部を納付するときは、承継期間分の利子税の割合は年0%に軽減される」という説明があります。個人版のパンフレットには同じ記載はありません。

農地の納税猶予との違い|「20年で免除」はどの制度の話?
「20年続ければ免除になる」という話を聞いたことがある方もいるかもしれません。これは農地等の納税猶予の話で、しかも一部の農地に限られます。事業承継税制とは別の制度なので、混同しないようにしましょう(国税庁:農地等の贈与税の納税猶予・同:相続税の納税猶予、令和8年7月)。
| 比較項目 | 農地等の納税猶予 | 事業承継税制 |
|---|---|---|
| 承継する財産 | 農地・採草放牧地・準農地(農業の後継者が取得) | 非上場株式等(法人版)/特定事業用資産(個人版) |
| 猶予される税額 | 贈与税:農地等の価額に対応する贈与税額/相続税:農業投資価格を超える部分に対応する相続税額 | 対象資産に対応する贈与税・相続税の全額(特例措置) |
| 贈与者が亡くなったとき | 受贈者が贈与者から相続で取得したものとみなされて相続税の課税対象となり、その時に猶予税額は免除 | 贈与税の猶予税額は免除。みなし相続財産として相続税を計算し、要件を満たせば相続税の納税猶予 |
| 受贈者(後継者)が先に亡くなったとき | 受贈者の死亡の時に猶予税額は免除 | 後継者の死亡で猶予税額は免除 |
| 相続税の猶予が免除される主な場合 | 農業相続人の死亡/特例農地等の全部の生前一括贈与(特定貸付け等を行っていない農業相続人に限る)/三大都市圏の特定市以外の市街化区域内農地等で、相続税の申告期限の翌日から農業を20年間継続したとき(都市営農農地等を有しない農業相続人に限る) | 後継者の死亡/免除対象贈与/破産手続開始の決定など/事業の継続が困難な事由が生じたときの差額免除 |
出典:国税庁農地等についての贈与税の納税猶予及び免除のあらまし・農地等についての相続税の納税猶予及び免除等のあらまし(令和8年7月)、事業承継税制は前掲のパンフレット。
つまり、農地の「20年で免除」は、三大都市圏の特定市以外にある市街化区域内の農地などに限った免除事由です。それ以外の一般的な農地は、農業相続人の死亡などで免除される仕組みで、20年たてば免除という制度ではありません。
2026年の改正|提出期限は延長、適用期間は変わらず
| 項目 | 改正前 | 改正後 |
|---|---|---|
| 特例承継計画の提出期限(法人版) | 2026年3月31日 | 2027年9月30日(1年6か月延長) |
| 個人事業承継計画の提出期限(個人版) | 2026年3月31日 | 2028年9月30日(2年6か月延長) |
| 贈与・相続の適用期間 (法人版) |
2027年12月31日まで | 変更なし |
| 贈与・相続の適用期間 (個人版) |
2028年12月31日まで | 変更なし |
出典:財務省「租税特別措置法等〈相続税・贈与税関係〉の改正」(令和8年度税制改正の解説)。改正は円滑化法施行規則の改正で、2026年4月1日に施行されています。
延びたのは「計画を出す期限」で、「承継する期限」ではありません。実際に贈与・相続で承継する時期は、法人版は2027年12月31日まで、個人版は2028年12月31日までです。適用期限が到来した後のあり方は、令和8年度与党税制改正大綱で、令和9年度の税制改正で結論を得るとされています(財務省の解説による)。
✅ この記事のポイント
- 事業承継税制は、税金が消える制度ではなく、納税を猶予し、一定の事由で免除する制度
- 法人版は2027年12月31日まで・計画は2027年9月30日まで、個人版は2028年12月31日まで・計画は2028年9月30日まで
- 贈与者が亡くなると猶予中の贈与税は免除。ただし相続税の計算に入り、要件を満たせば相続税も納税猶予にできる
- 後継者が亡くなると猶予税額は免除。免除届出書は原則6か月以内(法人版で贈与者が亡くなった場合は10か月以内)
- 事業の廃止・資産管理会社化・継続届出書の未提出などで猶予が打ち切られると、利子税つきで納付
- 農地の「20年で免除」は事業承継税制ではなく、農地の納税猶予の一部の農地だけの話
📚 あわせて読みたい
まとめ:免除の条件を知っておくと、制度の見え方が変わります
事業承継税制は、個人版と法人版で承継する財産も期限も違いますが、「猶予は免除と別物」「免除は事業を続ける前提」という骨格は同じです。まず全体像をつかんだうえで、ご自身に関係する側の詳細を読んでいただければと思います。
自分で学ばないと、だれも教えてくれない。このブログをきっかけに、少しずつ制度を学んでいただけると嬉しいです。
次回は「個人版事業承継税制とは?手続・要件・免除条件を解説」について解説予定です。お楽しみに!


最後まで読んでくれてありがとう
資料集めやサーバー代など、ブログ作成には費用がかかっています。応援していただいた分は、次の記事づくりに大切に使わせていただきます。またブログに遊びに来てくださいね。
応援する【免責事項】
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の個人・法人に対する税務・法律・社会保険上のアドバイスではありません。記載内容の正確性・完全性を保証するものではなく、本記事を参考にした判断・行動による損害について当サイトは責任を負いかねます。個別の判断・手続きについては、税理士・社会保険労務士・弁護士・ファイナンシャルプランナーなど各分野の専門家にご相談ください。記載内容は2026年10月時点の情報に基づいており、法改正・制度改正等により変更となる場合があります。







