海外在住の子への相続・贈与|全世界課税と10年ルール

【この記事でわかること】
・海外に住む子や孫への相続・贈与で、日本の税金がどこまでかかるか
・「住所」「国籍」「10年」の3つの物差しで決まる判定のしくみ
・二重国籍の孫、親が海外に住んでいる場合などケース別の結論
・海外に住む孫は日本で申告するのか、どこの税務署か
・相続で印鑑証明・住民票の代わりになる在留証明・署名証明
・株式を多く持つ人に関わる国外転出(贈与・相続)時課税

娘が国際結婚してアメリカで暮らしている、孫は日本とアメリカの二重国籍。そんなご家庭は、いまでは珍しくなくなりました。
いざ「孫の学費を少し援助したい」「自分に万一のことがあったら、海外の娘にも財産が渡る」と考えたとき、ふと疑問がわきます。海外に住んでいる子どもに渡す財産にも、日本の相続税や贈与税はかかるのでしょうか。
この記事では、国税庁のタックスアンサー(No.4138)と(No.4432)、相続税法の条文をもとに、元国税局で資産税(相続・贈与)を担当していた私が、判定のしくみをできるだけかみくだいて整理します。
🌏 海外に住む家族への相続・贈与|課税は「全世界」か「日本の財産だけ」か
相続税と贈与税では、財産を受け取った人(相続人・受贈者)を「納税義務者」として4つに分けます。どれに当たるかで、税金がかかる財産の範囲が変わります。
分かれ目はひとつだけです。日本の財産も海外の財産もすべて対象になる(全世界課税)のか、日本国内にある財産だけが対象になるのか、という点です。
| 区分 | 受け取る人の状態 | 課税される財産 |
|---|---|---|
| 居住無制限納税義務者 | 日本に住所がある(一時居住者などの例外を除く) | 全世界 |
| 非居住無制限納税義務者 | 日本に住所はないが、国籍や10年の条件に当てはまる | 全世界 |
| 居住制限納税義務者 | 日本に住所があるが、上の区分に当たらない | 日本の財産だけ |
| 非居住制限納税義務者 | 日本に住所がなく、上の区分に当たらない | 日本の財産だけ |
出典:国税庁 No.4138・相続税の納税義務者の範囲等(Q&A)をもとに作成
ここで大事なのは、「海外に住んでいる=日本の財産だけ」とは限らないことです。海外に住んでいても「非居住無制限納税義務者」に当たれば、海外の財産まで日本の税金の対象になります。
📏 判定に使う3つの物差し|住所・国籍・10年
どの区分に当たるかは、次の3つで決まります。相続税(相続税法第1条の3)も贈与税(同法第1条の4)も、物差しは同じです。
| 物差し | 見るポイント |
|---|---|
| ① 住所 | 財産を受け取った時に、受け取る人が日本に住所を持っているか |
| ② 国籍 | 受け取る人が日本国籍を持っているか(二重国籍も「持っている」に入る) |
| ③ 10年 | 受け取る人・渡す人が、相続開始前(贈与前)10年以内に日本に住所を持っていたことがあるか |
②の二重国籍については、国税庁の相続税法基本通達(1の3・1の4共-7)にはっきり書かれています。
「日本国籍を有する個人」には、日本国籍と外国国籍とを併有する重国籍者も含まれるのであるから留意する。
つまり、日本とアメリカの二重国籍のお孫さんは、税金の判定では「日本国籍を持っている人」として扱われます。
なお、国税庁のタックスアンサーでは相続(No.4138)と贈与(No.4432)で表の形が違いますが、条文の判定の組み立ては同じです。相続だけの違いは、生前に相続時精算課税で贈与を受けた財産が相続税の対象に加わる点です。

🧭 ケース別早見表|子や孫が海外に住んでいる場合
ここからは、よくあるケースに当てはめてみます。前提は、渡す人も受け取る人も外国の在留資格で日本にいる人ではない(日本人の家族どうし)とします。
| 渡す人 | 受け取る人 | 課税される財産 |
|---|---|---|
| 日本在住の親 | アメリカ在住の娘(日本国籍・渡米して何年でも) | 全世界 |
| 日本在住の祖父母 | アメリカ生まれ・二重国籍の孫(日本に住んだことなし) | 全世界 |
| 日本在住の祖父母 | アメリカ国籍だけの孫(日本に住んだことなし) | 全世界 |
| 海外在住の親(日本を離れて10年超) | 海外在住の子(日本国籍・日本を離れて10年超) | 日本の財産だけ |
| 海外在住の親(日本を離れて10年超) | 海外在住の子(日本国籍・日本を離れて10年以内) | 全世界 |
| 海外在住の親(日本を離れて10年以内) | 海外在住の子(日本国籍・日本を離れて10年超) | 全世界 |
出典:相続税法第1条の3・第1条の4、国税庁 No.4138・No.4432をもとに作成。相続・贈与どちらも同じ結論です。
⚠️ 覚えておきたいのはこの1点
渡す人が日本に住んでいる日本人なら、受け取る人がどこに住んでいても、どの国籍でも、全世界の財産が日本の課税対象になります。
理由は条文の書き方にあります。海外に住む人が「日本の財産だけ」で済むのは、渡す人が「外国人被相続人(外国人贈与者)」か「非居住被相続人(非居住贈与者)」に当たるときに限られるからです。
「非居住被相続人」とは、ざっくり言えば亡くなった時点で日本に住所がなく、その前10年以内にも日本に住所がなかった人のことです(10年以内に日本に住所があっても、その間ずっと日本国籍がなかった人も含みます)。日本に住んでいる親は、これに当たりません。
🔁 逆のパターン|親が海外・子が日本に住んでいる場合
では逆に、親が海外で暮らしていて、子が日本に住んでいる場合はどうでしょうか。
この場合、受け取る子は日本に住所があるので「居住無制限納税義務者」です。親が海外に何年住んでいても、海外の財産を含めてすべてが日本の課税対象になります。
| 渡す人 | 受け取る人 | 課税される財産 |
|---|---|---|
| 海外在住の親(何年でも) | 日本在住の子 | 全世界 |
| 日本在住の親 | 日本在住の子 | 全世界 |
出典:国税庁 相続税の納税義務者の範囲等(Q&A)。受け取る子が「一時居住者」(外国の在留資格で日本にいて、過去15年のうち日本に住所があった期間が合計10年以下の人)の場合は扱いが変わることがあります。
海外に不動産や預金を持つ親から日本の子が相続すると、海外の財産も日本の相続税の計算に入るということです。「財産は海外にあるから日本は関係ない」と思い込まないよう注意しましょう。
❓ よくある疑問|海外に住む孫が申告するの?どこの税務署?
「全世界が課税対象」と聞くと、次に気になるのはだれが、どこで申告するのかだと思います。日本に住む祖父母から、アメリカに住む二重国籍の孫が贈与を受けた場合で整理します。
| 疑問 | 答え |
|---|---|
| そもそも贈与できる? | できる。贈与は、あげる人が「ただであげる」と伝え、もらう人が受け入れれば成立する(民法第549条)。住んでいる国は条件にない |
| 申告は必要? | 暦年課税なら、1年間にもらった財産の合計が110万円を超えたときに必要。110万円以下なら申告不要 |
| 申告するのはだれ? | 財産を受け取った孫(受贈者) |
| どこの税務署? | 贈与税は、孫が自分で納税地を定めて、その納税地の税務署長に申告する。申告がないときは国税庁長官が納税地を指定して通知する。相続税は、亡くなった人の住所地が納税地 |
| 手続きの窓口は? | 日本で手続きをする納税管理人を定め、「納税管理人届出書」を出す |
| 期限は? | 贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日まで |
出典:国税庁 No.4402 贈与税がかかる場合・No.4432、相続税法第28条(申告期限)・第62条第2項(納税地)、民法第549条(贈与)
📘 納税管理人とは?
日本に住所も居所もない人が、日本で申告書を出すなどの手続きをする必要があるとき、代わりに手続きをしてもらうために定める人です。日本国内に住所または居所がある人の中から定めます(国税通則法第117条第1項)。
- 定めたら「納税管理人届出書」を、納税地の税務署に出す。納税管理人を定めたとき、または出国の日までに提出。e-Taxのほか、書面の持参・郵送でもよい(国税庁 B1-28 相続税・贈与税の納税管理人の届出手続)
- 相続税の場合、届出書の「納税地」には亡くなった人の住所地を書く(届出書の記載要領)
- 納税管理人をやめてもらうときは「納税管理人解任届出書」を出す(国税庁 B1-29)
- 届け出ないでいると、税務署長から書面で届出を求められたり、一定の人を納税管理人に指定されたりすることがある(国税通則法第117条第3項〜第5項)
全世界が課税対象なので、祖父母がアメリカの孫の口座へ送金した分も、日本の贈与税の計算に入ります。「海外の口座だから日本には関係ない」とはならない点に注意しましょう。
海外に住む子や孫への贈与については、国税庁の質疑応答事例にも具体的な回答が出ています。
💡 国税庁の質疑応答事例から
- 10年前から英国に住む子が、日本に住む父から日本の土地の贈与を受ける場合も、要件を満たせば相続時精算課税を選べる(受贈者が外国に居住している場合の相続時精算課税の適用)
- 海外にある土地の贈与にも相続時精算課税を使え、その土地に現地で課された贈与税(外国税額)は、日本の贈与税から差し引ける(国外財産の贈与を受けた場合の相続時精算課税の適用)
いずれも令和7年8月1日現在の法令・通達等に基づく回答です。質疑応答事例は一般的な回答で、個別の事情によって課税関係が異なることがあると国税庁は注記しています。
⚠️ 「全世界課税」は相手の国の税金をなくすものではない
全世界課税が決めているのは、あくまで日本の税金の範囲です。子や孫が住む国が、その国の法律で別に課税することはあり得ます。国税庁の質疑応答事例(贈与税に係る外国税額控除)でも、贈与した人に贈与税をかける国で課された税額を、日本の贈与税から差し引けると回答されています。
📄 海外に子や孫がいる相続|印鑑証明・住民票の代わりになる書類
相続が起きると、遺産分割協議書や相続登記で印鑑証明書や住所の証明を求められます。ところが、日本の住民登録を抜いて海外に住んでいる人は、印鑑登録も一緒に抹消されるため、印鑑証明書が取れません。
そこで使うのが、海外の日本大使館・総領事館(在外公館)が出す証明です。外務省「在外公館における証明」から、相続でよく使う2つを整理します。
| 項目 | 在留証明 | 署名証明(サイン証明) |
|---|---|---|
| 何の代わり? | 海外の住所の証明(住民票の代わり) | 印鑑証明の代わり |
| 取れる人 | 日本国籍のある人(二重国籍を含む) | 日本国籍のある人 |
| 申請のしかた | 原則本人が公館で申請(オンライン在留届での申請も可) | 本人が公館で領事の前で署名。代理・郵便は不可 |
| 手数料 | 1通1,200円相当(現地通貨) | 1通1,700円相当(現地通貨) |
出典:外務省 在外公館における証明(2026年10月20日更新)。日数や必要書類は公館ごとに異なるため、事前に公館へ確認を。
外国籍だけの子や孫(たとえばアメリカ国籍だけの孫)は、在外公館の署名証明を取れません。外務省は、外国籍の人は現地の公証人に署名の証明を依頼することになると案内しています。
💡 国の機関の取り扱い
- 相続登記:海外に住んでいて印鑑証明書が取れない人は、日本の領事が作成した署名証明で代えられる。公館が遠いなど取得が難しいときは、外国の公証人が作成した署名証明も認められる(法務省)
- 相続税の申告:米国籍で米国に住む相続人が、遺産分割協議書の署名について米国領事の認証を受けたものは、印鑑証明書に代わるものとして差し支えない(国税庁 質疑応答事例・令和7年8月1日現在)
署名証明は本人が公館に出向く必要があり、すぐには取れません。相続が起きてから慌てないよう、海外に住む家族がいるなら、最寄りの在外公館の場所と手続きを先に調べておくと安心です。
💼 株式を多く持つ人は要注意|国外転出(贈与・相続)時課税
海外に住む子や孫に財産を渡すときは、相続税・贈与税とは別に、所得税がかかる場合があります。それが「国外転出(贈与・相続)時課税」です。
国税庁のタックスアンサー(No.1467)によると、1億円以上の有価証券等を持つ一定の居住者が、海外に住む人(非居住者)へ株式などを贈与すると、贈与の時に売ったものとみなして、含み益に所得税がかかります。相続で海外に住む相続人が受け取る場合も同じしくみです(No.1468)。
| 項目 | 贈与のとき | 相続のとき |
|---|---|---|
| 対象になる人 | 渡す人(贈与者) | 亡くなった人(被相続人) |
| 金額の条件 | 贈与の時の対象資産の合計が1億円以上 | 相続開始の時の対象資産の合計が1億円以上 |
| 住所の条件 | 原則、贈与前10年以内に日本に住所・居所があった期間が合計5年超 | 原則、相続開始前10年以内に日本に住所・居所があった期間が合計5年超 |
| 申告する人 | 贈与者が確定申告 | 相続人が準確定申告(知った日の翌日から4か月以内) |
| 納税猶予 | 担保の提供などで5年(延長で最長10年) | 担保の提供などで5年(延長で最長10年) |
出典:国税庁 No.1467・No.1468(いずれも令和8年4月1日現在法令等)。2015年7月1日以後の贈与・相続に適用されています。
対象資産は、株式や投資信託などの有価証券、未決済の信用取引・デリバティブ取引などです。国税庁の「国外転出時課税制度のあらまし」では、NISA口座の有価証券や国外で持っている対象資産も、1億円以上かどうかの判定に含めるとされています。
このしくみは、相続税・贈与税の判定とも少しつながっています。No.4138には、国外転出時課税の納税猶予の特例を受けていた場合は、「10年」の判定の扱いが異なる場合があると注記されています。株式を多く持つご家庭は、早めに税務署や税理士に確認しておくと安心です。
📝 気をつけたい3つのポイント|住所・財産の場所・申告
1つ目は「住所」の考え方です。税金の判定でいう住所は、相続税法基本通達(1の3・1の4共-5)で「各人の生活の本拠」とされ、客観的な事実で判定します。
さらに同じ通達(共-6)では、日本国籍の人が海外にいても、次のような場合は日本に住所があるものとして扱うとしています(住所が明らかに海外にあると認められる場合を除く)。
💡 日本に住所があるものとして扱われる例
- 留学していて、日本にいる人の扶養親族になっている
- 海外勤務が短期間(おおむね1年以内)と見込まれる(同居している配偶者なども含む)
- 海外出張などで、一時的に日本を離れているだけ
2つ目は「日本の財産」かどうかの見分け方です。受け取る人が「日本の財産だけ」の区分でも、日本にある財産には税金がかかります。No.4138では、財産の場所を次のように決めています。
| 財産の種類 | どこにあるとみるか |
|---|---|
| 預金・貯金 | 預け入れた金融機関の営業所(支店)の場所 |
| 不動産 | その不動産の場所 |
| 株式・社債 | 発行した会社の本店の場所 |
| 生命保険金など | 契約した保険会社の本店の場所 |
| 国債・地方債 | 日本国内 |
出典:国税庁 No.4138(参考)財産の所在から抜粋
たとえば、親が日本の銀行の支店に預けていた預金は「日本の財産」です。受け取る人がどの区分でも、日本の課税対象になります。
3つ目は申告の手続きです。日本に住所がない人が日本で申告する必要があるときは、納税管理人を定めて、納税地の税務署長に申告・納税します。あわせて「納税管理人届出書」の提出が必要です(No.4138・No.4432)。

✅ この記事のポイント
- 課税範囲は「全世界の財産」か「日本の財産だけ」かの2通り。相続税も贈与税も物差しは同じ
- 物差しは「住所」「国籍(二重国籍は日本国籍あり)」「10年以内の日本の住所」の3つ
- 渡す人が日本に住む日本人なら、受け取る人がどこに住んでいても全世界が対象
- 「日本の財産だけ」になるのは、日本人の家族どうしなら親も子も日本を離れて10年を超えている場合など
- 海外に住む孫も、年110万円を超える贈与を受けたら日本で申告。納税地は自分で定め、納税管理人を届け出る
- 海外に住む家族の相続では、印鑑証明の代わりに署名証明、住民票の代わりに在留証明を使う(外国籍の人は現地の公証人)
- 1億円以上の株式などを持つ人が海外の家族に渡すと、含み益に所得税(国外転出(贈与・相続)時課税)がかかることがある
まとめ|「海外に住んでいるから関係ない」は通用しない
家族が海外に住んでいても、日本の相続税・贈与税から自動的に外れるわけではありません。判定は「住所」「国籍」「10年」の3つの物差しで決まり、渡す人が日本に住んでいれば、基本は全世界の財産が対象です。
資産税の仕事をしていた立場から見ても、ここは思い込みが生まれやすいところです。国際結婚や海外赴任が当たり前になったいま、家族の住所と国籍を一度整理しておくだけで、いざというときの慌て方がまったく変わります。
自分で学ばないと、だれも教えてくれないからこのブログをきっかけに学ぼうと思っていただけると嬉しいです。
この記事では日本の税金に絞って解説しました。アメリカなど海外の国でも相続税・贈与税がかかることがあり、日本と二重にかかったときの調整のしくみもあります。
次回は「海外の子や孫への相続・贈与|米英中の税金と二重課税の調整」について解説しています。


最後まで読んでくれてありがとう
資料集めやサーバー代など、ブログ作成には費用がかかっています。応援していただいた分は、次の記事づくりに大切に使わせていただきます。またブログに遊びに来てくださいね。
応援する【免責事項】
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の個人・法人に対する税務・法律・社会保険上のアドバイスではありません。記載内容の正確性・完全性を保証するものではなく、本記事を参考にした判断・行動による損害について当サイトは責任を負いかねます。個別の判断・手続きについては、税理士・社会保険労務士・弁護士・ファイナンシャルプランナーなど各分野の専門家にご相談ください。記載内容は2026年10月時点の情報に基づいており、法改正・制度改正等により変更となる場合があります。







