自筆証書遺言書保管制度とは?公正証書遺言との違いを解説
【この記事でわかること】
・自筆証書遺言書保管制度の仕組みと3つのメリット(検認不要・紛失防止・形式チェック)
・手数料と申請の流れ(法務局への出頭が必要)
・公正証書遺言との違いと、制度の「限界」(内容までは審査されない)
「自分で書いた遺言書、ちゃんと家族に見つけてもらえるだろうか」「書き方が間違っていて無効になったらどうしよう」——遺言書を自分で書く「自筆証書遺言」には、こうした不安がつきものでした。私は元・国税局職員で、現職では遺言信託に関する実務にも携わっています。相談の現場でよく聞かれるのが「法務局に預けられる制度があると聞いたけど、公正証書遺言とどう違うの?」という疑問です。この記事では、2020年に始まった「自筆証書遺言書保管制度」の仕組みを、法務省の一次資料に基づいて整理してご紹介します。
① 自筆証書遺言書保管制度とは?3つのメリット
自筆証書遺言書保管制度は、自分で書いた遺言書(自筆証書遺言)を法務局(遺言書保管所)が原本と画像データの両方で長期間保管してくれる制度です。原本は遺言者の死亡後50年間、画像データは同150年間、適正に管理されます。この制度には、主に3つのメリットがあります。
💡 メリット①:家庭裁判所の「検認」が不要
自宅で保管していた自筆証書遺言が見つかった場合、相続人は家庭裁判所で「検認」という手続きを受ける必要があります。本制度を利用していれば、この検認が不要になり、相続開始後すぐに預貯金の解約や不動産の名義変更に着手できます。
💡 メリット②:紛失・改ざんの防止
遺言書の原本は法務局で厳重に保管され、同時に画像データとしても管理されます。自宅保管のように「見つけてもらえない」「書き換えられる」といったトラブルを防げます。
💡 メリット③:形式面のチェックが受けられる
申請時に法務局職員が、民法が定める外形的なルール(全文・日付・氏名の自書、押印の有無)を確認します。これにより、書き方の初歩的なミスで遺言書が無効になる事態を防げます。
② 手数料と申請の流れ
本制度の利用には、遺言者本人が法務局(遺言書保管所)へ出向く必要があります。手数料は手続きごとに以下のとおり定額で定められています。
| 手続き | 手数料 |
|---|---|
| 遺言書の保管の申請 | 3,900円(遺言書1通につき) |
| 遺言書情報証明書の交付請求 | 1,400円(1通につき) |
| 遺言書保管事実証明書の交付請求 | 800円(1通につき) |
| 閲覧の請求(モニター) | 1,400円(1回につき) |
| 閲覧の請求(原本) | 1,700円(1回につき) |
| 保管の申請の撤回・住所等の変更届出 | 無料 |
納付は収入印紙で行い、手続きを行う法務局(遺言書保管所)で購入できます。申請までの流れは次のとおりです。
📅 申請までの流れ
既定の様式で自書
住所地・本籍地・不動産所在地
手数料3,900円
遺言書には様式のルールがあります。A4サイズ・片面のみに記載し、各ページにページ番号を記載します。複数ページでもホチキス留めはせず、バラバラのまま持参します(封筒も不要)。余白は上5mm・下10mm・左20mm・右5mm以上を確保する必要があり、余白部分には何も記載できません。申請先は、遺言者の住所地・本籍地・所有する不動産の所在地のいずれかを管轄する法務局から選べます(追加の保管申請は、最初に申請した法務局に限られます)。本人確認にはマイナンバーカードや運転免許証など顔写真付きの身分証明書が必要で、全ての手続きが予約制です。
💡 豆知識:指定者通知は「3名まで」指定できる
指定者通知の対象は、以前は受遺者・遺言執行者・推定相続人のうち1名に限定されていましたが、令和5年10月2日の制度改正でこの限定が撤廃され、対象者を問わず3名まで指定できるようになりました。すでに1名だけ指定している場合も、変更の届出で追加できます。
③ 公正証書遺言との違い
遺言書を確実に残す方法としては、公証人が関与する「公正証書遺言」もよく比較されます。それぞれの特徴を整理すると、次のようになります。
| 比較項目 | 自筆証書遺言書保管制度 | 公正証書遺言 |
|---|---|---|
| 費用 | 定額3,900円 | 財産の価額に応じて変動(保管制度より高額になりやすい) |
| 内容のチェック | 法務局は形式面のみ確認。内容の有効性は審査しない | 公証人が内容の法的妥当性まで確認 |
| 証人 | 不要 | 2名以上必要 |
| 検認 | 不要 | 不要 |
| 手続きの場所 | 遺言者本人が法務局へ出頭(代理・郵送不可) | 公証役場。病気等で出向けない場合は公証人の出張も可能 |
どちらも検認が不要という点は共通していますが、「内容」まで公的にチェックされるかどうかが大きな違いです。保管制度はあくまで法務局が民法の定める形式(全文・日付・氏名の自書、押印の有無)を確認するだけで、財産の記載漏れや表現の曖昧さ、遺留分(法定相続人が最低限受け取れる取り分)を侵害していないかといった内容面は一切チェックされません。
④ 制度の限界と、失敗しないための備え方
本制度を利用する上で必ず理解しておきたいのが、「保管されている=内容も万全」ではないという点です。法務局のホームページでも「遺言の内容について相談に応じることはできません」「本制度は、保管された遺言書の有効性を保証するものではありません」と明記されています。財産の記載漏れ、表現のあいまいさによる解釈の違い、遺留分を侵害する内容などは、後になって相続人同士の「争族」の火種になりかねません。また、申請時に本人確認は行われますが、公正証書遺言のように証人立ち会いのもとで遺言能力(判断能力)を厳密に確認する仕組みではないため、「作成時に認知症だったのでは」と後日争われるリスクも残ります。
こうした限界を補うために有効なのが、専門家と法務局を使い分ける方法です。まず弁護士・司法書士など専門家に相談して、財産の記載漏れや曖昧な表現がない遺言書の「内容」を整えてもらい、その遺言書を法務局の保管制度に預けて「保管の安全性」と「検認不要」のメリットを受け取る、という二段構えです。内容の確実性と保管の安全性、両方の利点を組み合わせられます。
⚠️ 注意
遺言の内容(財産の分け方や遺留分への配慮など)について具体的な相談をしたい場合は、法務局ではなく弁護士・司法書士・行政書士など専門家にご相談ください。本記事は制度の仕組みを説明するものであり、個別の遺言内容についての助言ではありません。
✅ この記事のポイント
- 自筆証書遺言書保管制度は、検認不要・紛失防止・形式チェックの3つのメリットがある定額3,900円の制度
- 指定者通知は令和5年10月2日の改正で「3名まで」指定可能に拡大された
- 法務局は「形式」しか審査せず、「内容」の妥当性は保証されない。内容に不安があれば専門家と組み合わせる
まとめ:法務局は「保管」の安心、内容は自分と専門家で固める
自筆証書遺言書保管制度は、費用を抑えながら紛失・改ざんのリスクをゼロにし、家族に検認の手間をかけさせたくない方にとって心強い制度です。一方で、法務局が守ってくれるのはあくまで「保管」の部分であり、「内容」までは守ってくれません。財産の記載漏れや曖昧な表現、遺留分への配慮といった中身の部分は、自分自身か専門家の力で固めておく必要があります。自分で学ばないと、だれも教えてくれないからこのブログをきっかけに学ぼうと思っていただけると嬉しいです。
次回は、公正証書遺言の作成費用と手続きの流れについて解説予定です。お楽しみに!


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