社会保障協定とは?脱退一時金との違い

【この記事でわかること】
・「社会保障協定」とは何か、2つの仕組みの違い
・日本が協定を結んでいる24か国と、期間通算ができない4か国
・「脱退一時金」との関係、受け取ると何が変わるのか

脱退一時金と社会保障協定は、どちらも外国から日本へ、あるいは日本から外国へ働きに出る人の年金に関わる制度ですが、目的も使いどころもまったく別物です。混同したまま手続きを進めると、将来もらえるはずだった年金を自分から手放してしまうこともあります。今日は、元国税局職員の視点も交えながら、この2つの制度の関係を整理していきます。
社会保障協定とは?2つの顔を持つ制度
社会保障協定とは、国をまたいで働く人の年金・社会保険について、日本と相手国のあいだで結ばれる取り決めです。日本年金機構は、次の2つの仕組みをあわせて「社会保障協定」と説明しています。
| 仕組み | 目的と内容 |
|---|---|
| ①二重加入の防止 | 保険料の二重払いを防ぐ。5年以内の一時派遣なら派遣元国の制度だけに加入し続けられる(日本側は「適用証明書」の提出で免除) |
| ②年金加入期間の通算 | 保険料の掛け捨てを防ぐ。両国の加入期間を合算して、相手国の年金の受給資格期間を満たしやすくする(年金は一本化されず、それぞれの国から加入期間分だけ別々に受給) |
日本年金機構が挙げる例では、ドイツの年金加入期間が3年しかなく単独では受給資格(5年)を満たせない場合でも、日本の加入期間を通算すれば5年以上になり、ドイツの老齢年金を受給できるとしています(日本年金機構「協定相手国の年金支給の特例」)。掛け捨てで終わるはずだった保険料が、将来の年金として生きてくる仕組みです。
協定を結んでいる24か国、ただし4か国は「一部だけ」
日本年金機構によると、2025年12月1日にオーストリアとの協定が発効し、日本が社会保障協定を結んでいる国は24か国になりました(日本年金機構「Status of Agreements in Force」・2026年3月2日更新)。
ドイツ・イギリス・韓国・アメリカ・ベルギー・フランス・カナダ・オーストラリア・オランダ・チェコ・スペイン・アイルランド・ブラジル・スイス・ハンガリー・インド・ルクセンブルク・フィリピン・スロバキア・中国・フィンランド・スウェーデン・イタリア・オーストリアの24か国です。
ここで注意したいのが、すべての国で「期間通算」まで使えるわけではないという点です。
| 区分 | 対象国 | 使える仕組み |
|---|---|---|
| 20か国 | ドイツ・アメリカ・フランス・カナダ等 | 二重防止+期間通算 |
| 4か国 | イギリス・韓国・中国・イタリア | 二重防止のみ |
日本年金機構も「英国、韓国、中国およびイタリアとの協定については通算規定がないため、記載していません」と明記しています(日本年金機構「協定相手国の年金支給の特例」)。この4か国の出身者は、保険料の二重払いは防げても、日本での加入期間を母国の年金に合算することはできません。

脱退一時金との関係:受け取ると通算の権利も消える
脱退一時金は、日本国籍を持たない方が年金の被保険者資格を失って出国した場合に、納めた保険料の一部を払い戻す制度です(要件・計算式は以前の記事「脱退一時金とは?帰国する外国人の年金」で詳しく解説しています)。こちらは協定の有無に関係なく、日本国籍を持たない人であれば誰でも対象になり得ます。
問題は、社会保障協定で「期間通算」が使える国の出身者が脱退一時金を受け取ってしまった場合です。社会保険労務士が執筆する採用支援メディアの解説では、「脱退一時金を受けとると、脱退一時金を請求する以前のすべての期間が年金加入期間ではなくなってしまいます」「脱退一時金の支給を受けた場合、支給額の計算の基礎となった期間は、母国での年金加入期間として通算されなくなる」と説明されています(マイナビグローバル「外国人採用サポネット」)。つまり、日本での加入期間を使って母国の年金の受給資格を満たすつもりだった人が、先に脱退一時金を受け取ってしまうと、その道を自分で閉じることになります。
整理すると、期間通算が使える国の出身者は、出国のタイミングで次の二択を迫られることになります。
| 選択肢 | 受け取り方 | 日本の加入期間はどうなる |
|---|---|---|
| ① 脱退一時金を選ぶ | 出国後すぐに一時金として受け取る | 通算対象から外れる(消滅) |
| ② 通算を選ぶ | 受け取らず、母国の年金加入期間に合算する | 将来、母国の年金の受給資格として生きる |
日本での加入期間が短く、将来日本にも母国にも戻って年金をもらう見込みが薄いなら脱退一時金は合理的な選択です。一方、将来また日本や母国で働く可能性がある、あるいは母国の年金の受給資格まであと数年という状況なら、脱退一時金を急いで請求する前に一度立ち止まる価値があります。

✅ この記事のポイント
- 社会保障協定には「二重加入防止」と「期間通算」という2つの仕組みがある
- 日本の協定締結国は24か国。うちイギリス・韓国・中国・イタリアの4か国は二重防止のみで期間通算はできない
- 期間通算が使える国の出身者は、脱退一時金を受け取ると、その加入期間を母国の年金に通算できなくなる
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まとめ
社会保障協定は「保険料の二重払いを防ぐ」制度であると同時に、「掛け捨てを防ぎ将来の年金につなげる」制度でもあります。そして脱退一時金は、その通算の権利と引き換えになることがある、いわば「早めの精算」です。どちらが得かは、加入期間や今後日本・母国のどちらで働く可能性が高いかによって変わります。自分の出身国が24か国のどこに当てはまるか、通算の対象かどうかを、まず日本年金機構の公式ページで確認するところから始めてみてください。自分で学ばないと、だれも教えてくれないからこそ、このブログをきっかけに一歩踏み出していただけると嬉しいです。
次回は「所得税の178万円の壁、社会保険の壁と何が違う?」について解説予定です。お楽しみに!


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