遺留分とは?兄弟姉妹にはない理由と割合

【この記事でわかること】
・遺留分とは何か(遺言でもなくせない最低限の取り分)
・遺留分があるのはだれか、兄弟姉妹にはない理由
・遺留分の割合(家族の組み合わせ別の早見表)
・法務省の計算例でみる「遺留分侵害額」
・計算に入る生前贈与(1年・10年)と、生前の遺留分の放棄

親が「財産は全部、長男に」という遺言を残していたら、ほかのきょうだいは何も受け取れないのでしょうか。逆に、子どものいない夫婦で「全財産を妻に」と遺言しておけば、夫のきょうだいから何か言われることはないのでしょうか。
こうした場面で必ず出てくるのが遺留分(いりゅうぶん)です。信託実務で遺言執行に携わっていても、遺言の中身を考えるときにいちばん気をつけるのがこの遺留分です。この記事では、民法の条文と法務省・裁判所の資料をもとに、遺留分の基本を整理します。
📌 遺留分とは?|遺言でもなくせない「最低限の取り分」
📖 遺留分とは
一定の相続人に、法律が保障している遺産の最低限の取り分のこと。遺言や生前贈与でこれより少なくされた相続人は、多く受け取った人に対して、足りない分をお金で請求できます(民法第1042条・第1046条)。
遺言は、亡くなる人が自分の財産の行き先を自由に決められる仕組みです。ただ、その自由をそのまま認めると、残された家族の生活が立ち行かなくなることもあります。そのバランスをとるのが遺留分です。
2019年7月1日の民法改正で、遺留分は「遺留分侵害額請求」として、お金で支払いを求める権利になりました。それまでは、遺産の不動産などが共有になってしまうことがあり、事業承継の妨げになるという指摘があったためです(法務省「遺留分制度の見直し」)。
👪 遺留分があるのはだれ?|兄弟姉妹にはない
民法第1042条は、遺留分を受ける人を「兄弟姉妹以外の相続人」と定めています。裁判所の遺留分侵害額の請求調停のページでも、申し立てができる人は「遺留分を侵害された者(兄弟姉妹以外の相続人)」と書かれています(裁判所)。
| 相続人 | 遺留分 | ポイント |
|---|---|---|
| 配偶者 | あり | 常に相続人になる |
| 子 | あり | 子が先に亡くなっていれば孫が相続人になる |
| 父母などの直系尊属 | あり | 子がいないときに相続人になる |
| 兄弟姉妹 | なし | 子も親もいないときは相続人になるが、遺留分はない |
出典:e-Gov法令検索 民法第887条・第889条・第890条・第1042条をもとに作成
⚠️ 子どものいない夫婦は、遺言の効き目が大きい
子も親もいない人が亡くなると、配偶者と兄弟姉妹が相続人になります(民法第889条・第890条)。遺言がなければ、兄弟姉妹にも相続分があります。
一方、「全財産を妻に」という遺言があれば、兄弟姉妹には遺留分がないので、遺留分を請求されることはありません。なお、このときの配偶者の遺留分は2分の1です。遺言を書くかどうかで、結果が大きく変わる家族の形です。
📐 遺留分の割合|全体で2分の1(親だけなら3分の1)
遺留分の割合は、2段階で決まります。まず全体の遺留分が、相続人が父母などの直系尊属だけなら3分の1、それ以外は2分の1です。次に、それを各自の法定相続分で分けます(民法第1042条第2項)。
民法第1042条(全体の遺留分×法定相続分)をもとに作成
| 相続人の組み合わせ | 法定相続分 | 遺留分 |
|---|---|---|
| 配偶者のみ | 配偶者 1 | 配偶者 1/2 |
| 配偶者と子 | 配偶者 1/2 子 1/2 |
配偶者 1/4 子 1/4 |
| 子のみ | 子 1 | 子 1/2 |
| 配偶者と直系尊属 | 配偶者 2/3 直系尊属 1/3 |
配偶者 1/3 直系尊属 1/6 |
| 直系尊属のみ | 直系尊属 1 | 直系尊属 1/3 |
| 配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者 3/4 兄弟姉妹 1/4 |
配偶者 1/2 兄弟姉妹 なし |
出典:e-Gov法令検索 民法第900条・第1042条の式で算出(遺産全体に対する割合)。子・直系尊属・兄弟姉妹の数字はその立場の合計で、複数いるときは人数で等分する(例:配偶者と子2人なら、子は1人8分の1)
法定相続分と遺留分を見比べると分かるとおり(スマホでは表を横にスクロール)、遺留分は基本的に法定相続分の半分です。たとえば配偶者と子2人なら、配偶者は4分の1、子は合計4分の1(1人8分の1)。残りの2分の1には遺留分がありません。
例外は2つです。直系尊属(父母など)だけが相続人のときは、全体の遺留分が3分の1になります。また、配偶者と兄弟姉妹のときは、兄弟姉妹に遺留分がないため、配偶者の遺留分は2分の1です。

🧮 法務省の計算例|遺留分侵害額はこう計算する
法務省は、2019年の改正の説明資料で、次のような計算例を示しています。会社を経営していた親が、事業を手伝っていた長男に会社の土地建物を、長女に預金を相続させる遺言を残して亡くなった例です(配偶者はすでに死亡)。
| 長男 | 長女 | |
|---|---|---|
| 遺言で受け取る財産 | 会社の土地建物 | 預金 |
| 金額 | 1億1,123万円 | 1,234万5,678円 |
| 遺留分の割合 | 1/4 | 1/4 |
💡 長女の遺留分侵害額(法務省の計算例)
(1億1,123万円 + 1,234万5,678円)× 1/2 × 1/2 − 1,234万5,678円
= 1,854万8,242円
出典:法務省「遺留分制度の見直し」の計算例をそのまま掲載
遺産の合計に、全体の遺留分(2分の1)と長女の法定相続分(2分の1)を掛けたものが長女の遺留分です。そこから、長女が遺言で受け取った預金を引いた残りが「足りない分」=遺留分侵害額になります。
改正前(2019年6月30日まで)
土地建物が長男と長女の共有に
事業承継の妨げになると指摘されていた
改正後(2019年7月1日〜)
長女は長男にお金で請求
1,854万8,242円を請求できる
出典:法務省「遺留分制度の見直し」をもとに作成。すぐにお金を用意できない人は、裁判所に支払期限の猶予を求めることもできる
📜 +α 「遺留分減殺請求」から「遺留分侵害額請求」へ|名前も中身も変わった
2019年の改正で変わったのは、計算の結果だけではありません。請求の名前と、請求したときに起きることそのものが変わりました。法務省「相続法の改正」は、改正前のルールを「遺留分減殺請求権の行使によって当然に物権的効果が生ずる」と説明しています。物権的効果とは、請求すると財産そのものが請求した人のもとへ戻るということです。
| 項目 | 2019年6月30日までに亡くなった場合 | 2019年7月1日以後に亡くなった場合 |
|---|---|---|
| 名前 | 遺留分減殺請求 | 遺留分侵害額請求 |
| 請求すると | 財産そのものが戻り、土地や建物が共有になる | お金の支払いを求める権利になる |
| 家庭裁判所の調停 | 遺留分減殺による物件返還請求等の調停 | 遺留分侵害額の請求調停 |
出典:法務省「相続法の改正」・裁判所「遺留分侵害額の請求調停」をもとに作成。どちらのルールになるかは、亡くなった日で決まります
📊 改正前に起きていた「複雑な共有」(法務省の例・会社の土地建物 1億1,123万円)
- 長男の持分:9268万1758/1億1123万
- 長女の持分:1854万8242/1億1123万
分母が1億1,123万もある持分で、1つの土地建物を2人で持つ形です。売ったり担保に入れたりするには、もう一人との話し合いが欠かせません。
法務省は、改正前のルールの問題として次の2つを挙げていました(法務省「遺留分制度の見直し」)。
- 共有になることが、事業承継の支障になっている
- 共有の割合は分母・分子とも極めて大きな数字になり、持分を売るなどの処分に支障が出るおそれがある
そこで今の民法は、遺留分を「お金で解決する」ルールに変えました。民法第1046条第1項は、遺留分を侵害された人は「遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる」と定めています。土地や建物そのものを取り戻すことはできず、請求できるのはお金です。遺言で事業用の土地建物を後継ぎに残す、といった本人の意思も、そのまま守られやすくなりました。
📝 計算に入る生前贈与|相続人への贈与は10年
遺留分は、亡くなったときの財産だけで計算するわけではありません。生前に贈与した財産も、一定の範囲で足して計算します(民法第1043条・第1044条)。
| だれへの贈与か | 計算に入る贈与 |
|---|---|
| 相続人以外(孫・知人など) | 亡くなる前1年間の贈与 |
| 相続人(子など) | 亡くなる前10年間の、結婚・養子縁組のため、または生計の資本としての贈与 |
| だれへの贈与でも | 贈与した側ともらった側の両方が、遺留分を持つ人に損害を与えると知っていた贈与は、1年より前でも入る |
出典:e-Gov法令検索 民法第1043条・第1044条をもとに作成
「生前に長男に家を買ってあげた」といった贈与は、亡くなる前10年以内なら遺留分の計算に入る可能性があります。相続税の生前贈与の加算とは別のルールなので、混同しないよう注意が必要です。相続税のほうは、亡くなった日が2026年12月31日までなら亡くなる前3年以内の贈与が対象で、2024年1月1日以後の贈与から段階的に7年に延びます(国税庁 No.4161)。

✋ 遺留分は放棄できる?|生前は家庭裁判所の許可が必要
遺留分は、親が生きているうちに放棄することもできます。ただし、相続が始まる前の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り効力があります(民法第1049条)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申し立てる人 | 遺留分を持つ相続人(本人) |
| 時期 | 相続が始まる前(親が生きている間) |
| 申立先 | 被相続人(親)の住所地の家庭裁判所 |
| 費用 | 収入印紙800円分と連絡用の郵便切手 |
なお、きょうだいの1人が遺留分を放棄しても、ほかのきょうだいの遺留分が増えるわけではありません(民法第1049条第2項)。
✅ この記事のポイント
- 遺留分は、遺言でもなくせない相続人の最低限の取り分。足りない分はお金で請求できる
- 遺留分があるのは配偶者・子・父母などの直系尊属。兄弟姉妹にはない
- 遺留分は基本的に法定相続分の半分。例外は、直系尊属だけなら3分の1、配偶者と兄弟姉妹なら配偶者が2分の1
- 法務省の計算例:長女の遺留分侵害額は1,854万8,242円
- 相続人への生前贈与は、亡くなる前10年分(結婚・養子縁組・生計の資本)が計算に入る
- 生前の放棄は家庭裁判所の許可が必要。放棄してもほかの相続人の遺留分は増えない
まとめ|遺言を書く前に「遺留分」を確かめる
遺留分は、遺言の自由と家族の生活のバランスをとる仕組みです。配偶者・子・親にはあり、兄弟姉妹にはない。この線引きを知っているだけで、遺言の書き方も、遺言を受け取ったときの心構えも変わります。
遺言執行の現場でも、遺留分に配慮していない遺言は、相続のあとに家族の話し合いがこじれる原因になりがちです。遺言を書くときは、だれに遺留分があり、いくらになるかを一度確かめておくと安心です。
自分で学ばないと、だれも教えてくれないからこのブログをきっかけに学ぼうと思っていただけると嬉しいです。
次回は「遺留分侵害額請求とは|請求方法と特別受益・寄与分」について解説しています。


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