海外の子や孫への相続・贈与|米英中の税金と二重課税の調整

【この記事でわかること】
・海外に住む子や孫に財産を渡すと、相手の国でも税金がかかるのか
・アメリカ:贈与税を払うのはだれか、受け取る側の「報告」のルール
・イギリス:相続税のかかり方と「7年ルール」、2025年からの新ルール
・中国:相続税・贈与税は現行の税目にない、住宅は個人所得税の扱い
・+α:台湾と香港の相続・贈与の税金
・日本と二重にかかったときの調整(外国税額控除・日米相続税条約)

前回の記事では、海外に住む子や孫への相続・贈与で、日本の税金がどこまでかかるかを整理しました。結論は「渡す人が日本に住む日本人なら、子や孫がどこに住んでいても日本の税金の対象になる」でした。
すると次に気になるのが、相手の国でも税金がかかって、二重に払うことにならないかという点です。アメリカに住む娘、イギリスで働く息子、中国に嫁いだ娘。国ごとにしくみがまったく違います。
この記事では、アメリカ・イギリス・中国の税務当局が出している資料と、日本の相続税法の条文をもとに、元国税局で資産税(相続・贈与)を担当していた私が、まず押さえておきたいところに絞って整理します。後半では+αとして台湾と香港も取り上げます。
🌐 相手の国の税金|「だれに」かかるかが国によって違う
日本の相続税・贈与税は、財産を受け取った人にかかります。ところが、アメリカやイギリスは渡した人(亡くなった人)の財産のほうに税金をかける国です。まずこの違いを押さえると、各国の話がすっきり入ってきます。
| 国 | 相続・贈与の税金はだれにかかるか | 受け取る人の手続き |
|---|---|---|
| 日本 | 受け取った人(相続人・受贈者) | 受け取った人が申告・納税 |
| アメリカ | 渡した人(贈与者・亡くなった人の遺産) | 外国の人から年10万ドル超を受け取ると報告 |
| イギリス | 亡くなった人の遺産 | 受け取った人は通常は払わない |
| 中国 | 相続税・贈与税は現行の税目にない | 住宅は個人所得税の扱いあり |
出典:IRS「Gift tax」・IRS「Gifts from foreign person」・GOV.UK「How Inheritance Tax works」・BRITACOM「Profile——The People's Republic of China」・国家税務総局上海市税務局(2019年第74号の解答)をもとに作成
日本の税金は前回のとおり受け取る人にかかるので、たとえば「日本の親→アメリカの娘」なら、日本では娘、アメリカでは親と、税金を払う人が国によって入れ替わります。ここが国際相続のややこしいところです。

🗽 アメリカ|贈与税は渡す側、受け取る子は10万ドル超で報告
アメリカの贈与税は、原則として贈与した人(donor)が払う税金です(贈与者が払わない場合は、受け取った人が払うことがあります)。日本に住む親や祖父母は、アメリカから見ると「米国市民でも米国居住者でもない人」に当たり、贈与税の対象は次のように限られています。
| 項目 | IRSの説明(2026年) |
|---|---|
| 贈与税の対象 | アメリカにある不動産と有形の財産 |
| 対象外 | アメリカにある無形の財産(アメリカの会社の株式など) |
| 年間の非課税 | 受け取る人1人あたり 19,000ドル |
| 現金・米国の預金 | IRSの資料に明記なし(この記事では断定しません) |
出典:IRS「Gift tax for nonresidents not citizens of the United States」・IRS「Frequently asked questions on gift taxes for nonresidents not citizens of the United States」
IRSの説明では、対象になるのは「アメリカにある」不動産と有形の財産です。日本の金融機関に預けている預金は「アメリカにある財産」には当たらないので、日本の預金を渡すだけならアメリカの贈与税の対象にはならないと読めます(IRSの文言からの読み取りです)。
一方で、受け取った娘さんの側には別のルールがあります。アメリカに住む人が、外国の個人から1年間に合計10万ドルを超える贈与や遺贈を受け取ったら、Form 3520という書類でIRSに報告しなければなりません。
⚠️ Form 3520は「税金」ではなく「報告」
- 対象:アメリカに住む人が、外国の個人から年間合計10万ドル超の贈与・遺贈を受けたとき
- 期限:原則として翌年の4月15日(延長があればそれに従う)
- 出し忘れ:正当な理由がなければ、受け取った額の月5%(最大25%)のペナルティがかかることがある
親が亡くなったときはどうでしょうか。アメリカの遺産税も、アメリカ以外に住む外国人についてはアメリカにある財産(アメリカの不動産・アメリカの会社の株式など)が対象です。その合計が6万ドルを超えると、遺言執行者などが亡くなってから9か月以内に「Form 706-NA」を出す必要があります(IRS「Estate tax for nonresidents not citizens of the United States」)。
信託実務で相続の手続きに携わっていても、日本の親が米国株を「アメリカの証券口座で」持っていたというケースは珍しくありません。財産の「場所」がアメリカになると話が変わる、という点は覚えておきたいところです。
🏰 イギリス|相続税は遺産にかかる、7年ルールと2025年の新ルール
イギリスの相続税(Inheritance Tax)は、亡くなった人の遺産にかかる税金です。遺産から払い、受け取った人は通常は払いません。非課税の枠は32万5,000ポンドで、超えた部分に40%がかかります(GOV.UK)。
生前の贈与には「7年ルール」があります。贈与してから7年生きていれば相続税はかかりません。7年以内に亡くなると、時期に応じて税率が下がる「テーパー・リリーフ」が使われます。
| 贈与から亡くなるまで | 贈与にかかる税率 |
|---|---|
| 3年以内 | 40% |
| 3〜4年 | 32% |
| 4〜5年 | 24% |
| 5〜6年 | 16% |
| 6〜7年 | 8% |
| 7年以上 | 0% |
出典:GOV.UK「Rules on giving gifts」(段階的な軽減は、亡くなる前7年の贈与の合計が32万5,000ポンドを超える場合だけ。年3,000ポンドまでの贈与は遺産に足されない)
もうひとつ大事なのが、2025年4月6日に始まった新しいルールです。それまでの「ドミサイル(本拠地)」という考え方に代わり、「長期の英国居住者(long-term UK resident)」かどうかで、海外の財産まで相続税の対象になるかが決まるようになりました。
| 区分 | 相続税の対象になる財産 |
|---|---|
| 長期の英国居住者 | 海外の財産も含めて対象 |
| それ以外の人 | イギリスにある財産だけ |
出典:GOV.UK「Inheritance Tax if you’re a long-term UK resident」(長期の英国居住者=直前の10年連続、または直前20年のうち合計10年以上、英国の税務上の居住者だった人)
日本に住んでいる親がイギリスの長期居住者でなければ、イギリスで問題になるのは親がイギリスに持っている財産です。逆に、イギリスに長く住んでいる息子さん自身が将来亡くなったときは、日本の財産も含めてイギリスの相続税の対象になりうる、という点も頭の片すみに置いておくとよいでしょう。

🏮 中国|相続税・贈与税はなし、住宅は個人所得税の扱い
中国には、相続税(遺産税)・贈与税という税目がありません。中国の税務当局(国家税務総局)は「現行の税目は18」と説明しています(国家税務総局山西省税務局、2025年4月3日)。中国の税務当局が中心になってつくった国際協力の枠組み(BRITACOM)の国別資料で18の税目を一つずつ見ても、遺産税・贈与税は入っていません(BRITACOM「Profile——The People's Republic of China」2025年5月)。
ただし、受け取った財産に別の税金がかかる場面はあります。税務当局の資料で確認できたのは、住宅を無償で渡したときの個人所得税の扱いです。
| 住宅をだれから受け取るか | 個人所得税 | 根拠 |
|---|---|---|
| 配偶者・父母・子・祖父母・孫・兄弟姉妹から(相続も) | かからない | 財税〔2009〕78号 |
| それ以外の人から無償で | 20%(偶然所得) | 2019年第74号 |
出典:国家税務総局広東省税務局(財税〔2009〕78号)・国家税務総局上海市税務局(2019年第74号の解答)
親族間の住宅の贈与で個人所得税をかけない手続きには、親族関係を示す公証書などを出すことになっています(78号の第二条)。また、同じ解答では、親戚や友人どうしの贈り物は個人所得税の課税範囲に入らないと説明されています。現金を送った場合の中国側の扱いを正面から書いた公式資料は確認できなかったので、心配なときは中国の税務の専門家に確かめてください。
🌏 +α 台湾と香港|台湾は贈与税あり、香港は遺産税を廃止
中国と比べるために、台湾と香港も見ておきます。同じ中国語圏でも、相続・贈与の税金のしくみはまったく違います。
| 地域 | 相続(遺産)にかかる税 | 贈与にかかる税 |
|---|---|---|
| 台湾 | 遺産税あり。基礎控除1,333万台湾ドル(2026年)、税率10〜20% | 贈与税あり。年244万台湾ドルまで非課税、税率10〜20%。原則として渡した人が納める |
| 香港 | 遺産税なし。2006年2月11日以降に亡くなった人の遺産から廃止 | 政府の税制の説明に贈与税は出てこない(所得への課税は事業の利益・不動産の賃料・給与の3つ) |
出典:台湾財政部「2026年の遺産税の免税額と控除額」・台湾財政部賦税署「2025年の遺産税・贈与税の免税額と税率」・台湾財政部台北国税局「Estate and Gift Tax」・香港税務局「Estate Duty」・香港財経事務及庫務局「Prevailing Tax Policy」
台湾の贈与税は、アメリカと同じく渡した人が納めるのが原則です。台湾の外に住む人や台湾の国籍でない人が贈与したときは、台北国税局に申告することになっています(台北国税局)。日本の親が台湾にある財産を渡すときは、台湾側の申告がいるかどうかも確かめておきましょう。
香港は、2005年の条例(Revenue (Abolition of Estate Duty) Ordinance 2005)で遺産税を廃止しました。2006年2月11日以降に亡くなった人の遺産には、遺産税がかかりません(香港税務局)。
どの国・地域に子や孫が住んでいても、日本の税金は前回のとおり受け取る人にかかります。渡す人が日本に住む日本人なら、相手の国に税金がなくても日本の相続税・贈与税の対象になる点は変わりません。
⚖️ 二重にかかったら?|外国税額控除と日米相続税条約
相手の国でも税金がかかり、日本でもかかる。そんな二重課税を調整するのが、相続税法の外国税額控除です。相続税は第20条の2、贈与税は第21条の8に定められています(e-Gov法令検索「相続税法」)。
💡 条文のポイント(第21条の8・贈与税)
- 対象:贈与で日本の外にある財産を取得し、その国の法令で贈与税に相当する税が課せられたとき
- 効果:日本の贈与税から、その国で課せられた税額を差し引く
- 上限:日本の贈与税額のうち、その年の贈与財産に占める「国外の財産」の割合に当たる部分まで
相続税の第20条の2も同じしくみです。
ここで疑問がわきます。アメリカの贈与税は親が払うのに、日本で控除を受けるのは子。払った人が違っても差し引けるのでしょうか。
国税庁の質疑応答事例「贈与税に係る外国税額控除」は、贈与した父に贈与税をかける国の事例で、控除できると答えています。要件は「受け取った人に課税されたこと」ではなく、「贈与した財産に贈与税が課せられたこと」だから、という理由です。
つまり、二重課税の問題が実際に起きやすいのは、条文のとおり国外にある財産を渡すときです。具体的に並べると、次のようになります。
| 渡すもの(日本の親→アメリカの子) | アメリカの贈与税 | 日本の贈与税 |
|---|---|---|
| 日本の金融機関の預金 | 対象外と読める | かかる |
| アメリカにある不動産 | かかる(親が払う) | かかる(外国税額控除あり) |
出典:IRS・国税庁 質疑応答事例・相続税法第21条の8をもとに作成(「対象外と読める」はIRSの文言からの読み取り)
もうひとつの調整の手段が租税条約です。日本が相続税・贈与税について結んでいる条約は、アメリカとの「日米相続税条約」(昭和30年条約第2号)で、国税庁の税務大学校の論文でも「唯一」と書かれています(税務大学校論叢59号)。IRSの一覧でも、日本は遺産税・贈与税の条約がある国に入っています(IRS「Estate & gift tax treaties」)。イギリス・中国とは、条約ではなく日本の国内法(外国税額控除)で調整することになります。
✅ この記事のポイント
- 日本は「受け取った人」、アメリカは「渡した人」、イギリスは「亡くなった人の遺産」に税金をかける
- アメリカ:日本に住む親の贈与で対象になるのはアメリカにある不動産・有形の財産。2026年の非課税は1人19,000ドル
- アメリカに住む子が外国の個人から年10万ドル超を受け取ったらForm 3520で報告。出し忘れは月5%(最大25%)
- イギリス:非課税枠32万5,000ポンド・税率40%、7年ルールあり。2025年4月6日から長期居住者ルール
- 中国:現行の18の税目に相続税・贈与税はない。親族間の住宅の贈与・相続は個人所得税がかからない
- +α:台湾は遺産税・贈与税とも税率10〜20%(贈与税は原則として渡した人が納める)。香港は2006年に遺産税を廃止
- 二重にかかったら外国税額控除。相手の国で贈与した親に課された税も、日本で子の贈与税から差し引ける
まとめ|相手の国の「だれにかけるか」を先に確かめる
海外に住む子や孫に財産を渡すとき、相手の国の税金は「だれにかけるか」から確かめると整理しやすくなります。アメリカとイギリスは渡す側、日本は受け取る側。どの国でも、財産がどこにあるかで結論が変わるのが共通点です。
資産税の仕事をしていたころから、国際相続でいちばん多いつまずきは「税金」より「手続きの見落とし」だと感じています。Form 3520のような報告や、日本での申告と納税管理人の届出(前回の記事)を、家族で一度確認しておくと安心です。
自分で学ばないと、だれも教えてくれないからこのブログをきっかけに学ぼうと思っていただけると嬉しいです。
次回は「遺留分とは?兄弟姉妹にはない理由と割合」について解説しています。


最後まで読んでくれてありがとう
資料集めやサーバー代など、ブログ作成には費用がかかっています。応援していただいた分は、次の記事づくりに大切に使わせていただきます。またブログに遊びに来てくださいね。
応援する【免責事項】
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の個人・法人に対する税務・法律・社会保険上のアドバイスではありません。記載内容の正確性・完全性を保証するものではなく、本記事を参考にした判断・行動による損害について当サイトは責任を負いかねます。個別の判断・手続きについては、税理士・社会保険労務士・弁護士・ファイナンシャルプランナーなど各分野の専門家にご相談ください。記載内容は2026年10月時点の情報に基づいており、法改正・制度改正等により変更となる場合があります。







