AI時代のポータブルスキルとは|公務員経験の棚卸し方

【この記事でわかること】
・厚生労働省が定める「ポータブルスキル」の9つの要素
・AIの普及で、スキルの「棚卸し」が大切になっている理由
・公務員経験を民間の言葉に置き換える棚卸しのやり方
・今日からできる3つのアクション

😊 「転職したい気持ちはある。でも、職務経歴書に何を書けばいいのか分からない」——公務員として働いていると、そう感じている方も多いのではないでしょうか。
前回の記事「求人倍率2.86倍でも『動けない人』が増える理由」では、求人が増えているのに動けない人が多いという、転職市場のもう一つの顔を見てきました。今回はその続きとして、動き出すための最初の一歩、「スキルの棚卸し」を取り上げます。
私自身、国税の職場から民間企業へ転職するとき、まず取り組んだのがこの棚卸しでした。その経験も交えながら、厚生労働省の資料をもとに一緒に整理していきましょう。
📌 ポータブルスキルとは?厚生労働省が示す9つの要素
ポータブルスキルとは、厚生労働省の説明では職種の専門性以外に、業種や職種が変わっても持ち運びができる職務遂行上のスキルのことです(厚生労働省「ポータブルスキル見える化ツール(職業能力診断ツール)」)。
要素は「仕事のし方(対課題)」と「人との関わり方(対人)」の2つに分かれ、合わせて9つあります。資格や専門知識とは別の、「仕事の進め方」と「人との向き合い方」の力だと考えると分かりやすいです。
| 区分 | 要素 | 厚生労働省の定義 |
|---|---|---|
| 仕事のし方 | 現状の把握 | 取り組むべき課題やテーマを設定するために行う情報収集やその分析のし方 |
| 仕事のし方 | 課題の設定 | 事業、商品、組織、仕事の進め方などの取り組むべき課題の設定のし方 |
| 仕事のし方 | 計画の立案 | 担当業務や課題を遂行するための具体的な計画の立て方 |
| 仕事のし方 | 課題の遂行 | スケジュール管理や各種調整、業務を進めるうえでの障害の排除や高いプレッシャーの乗り越え方 |
| 仕事のし方 | 状況への対応 | 予期せぬ状況への対応や責任の取り方 |
| 人との関わり方 | 社内対応 | 経営層・上司・関係部署に対する納得感の高いコミュニケーションや支持の獲得のし方 |
| 人との関わり方 | 社外対応 | 顧客・社外パートナー等に対する納得感の高いコミュニケーションや利害調整・合意形成のし方 |
| 人との関わり方 | 上司対応 | 上司への報告や課題に対する改善に関する意見の述べ方 |
| 人との関わり方 | 部下マネジメント | メンバーの動機付けや育成、持ち味を活かした業務の割り当てのし方 |
出典:厚生労働省「ポータブルスキル見える化ツール(職業能力診断ツール)」の「ポータブルスキルの要素」
この考え方は、もともと人材サービスの業界団体である一般社団法人人材サービス産業協議会(JHR)が開発したものです。厚生労働省のページにも、そのことが明記されています。
ポータブルスキルは「何の担当だったか」ではなく、「どう仕事を進めてきたか」を見る物差しです。

🤖 AI時代に棚卸しが必要な3つの理由
「スキルがない」のではなく、「言葉にできていない」。公務員の方が棚卸しでつまずく原因は、私の経験ではここにあります。理由を3つに分けて見ていきます。
①仕事を「肩書き」で語る習慣がある
厚生労働省の事業でJHRが作成した「“ポータブルスキル”活用研修」テキストは、経歴を専門性・経験年数・属性で語る見方を「ヒト軸」、どんな課題を解決してきたかで語る見方を「コト軸」と呼び、ポータブルスキルをつかむにはコト軸への切り替えが大切だとしています。
| 見方 | ヒト軸 | コト軸 |
|---|---|---|
| 問い | どんな経験を積んできた人か | どんな課題を解決してきたか |
| 語り方の例 | 〇〇課に3年在籍 | 〇〇の手続きの遅れを解消した |
| 見るもの | 専門性・経験年数・属性 | 解決したい課題・解決してきた課題 |
出典:“ポータブルスキル”活用研修 講義者用テキスト(厚生労働省 平成26年度事業・JHR作成)をもとに作成(語り方の例は筆者作成)
同じテキストは、課題は業界や職種の枠を超えて共通するので、キャリアチェンジのきっかけになると説明しています。一方、国税の職場は転勤が前提で、2〜3年ごとに部署が変わります。多様な経験を積んでいるのに、「〇〇部門に〇年」という肩書きでしか表現していない。ここに一つ目のつまずきがあると私は感じています。
②組織の中の言葉でしか説明してこなかった
役所の仕事は組織の中で完結することが多く、内部の用語で話しても通じてしまいます。さらに守秘義務があるので、具体的な中身を外で話す機会もありません。結果として、外の人に伝わる言葉に翻訳する練習をしてこなかった、というのが私の実感です。
③AIの普及で、求められるスキルの入れ替わりが早くなった
転職サービス「doda」の「転職市場予測2026下半期」(パーソルキャリア、2026年7月6日)は、AIツールを導入・活用している従業員数501名以上の企業のうち、中途採用で求める人材像が「大きく変わった」「一部変わった」と答えた企業が合わせて7割超にのぼったと紹介しています。
同じ資料は、転職市場で求められるスキルは短いスパンで更新されていくとし、個人が定期的に棚卸しやアップデートをしていくことの大切さに触れています。一度書いた職務経歴書を、そのまま何年も使い回せる時代ではなくなってきています。
📝 公務員経験の棚卸し方|9要素に当てはめる
ここからが本題です。解決方法はシンプルで、自分の仕事を「コト軸」で思い出し、9つの要素に振り分けていきます。参考までに、私の前職である国税の仕事を当てはめた例を載せます。
| 要素 | 国税の仕事に当てはめた例 |
|---|---|
| 現状の把握 | 調査に入る前に、資料を集めて数字の動きを分析する |
| 課題の設定 | 集めた情報から、確認すべき論点を絞り込む |
| 計画の立案 | 限られた日数で何をどの順に確認するか段取りを組む |
| 課題の遂行 | 期限までに複数の案件を並行して処理する |
| 状況への対応 | 想定外の事実が出てきたときに、方針を組み立て直す |
| 社内対応 | 関係部署と調整し、決裁を通すための説明をする |
| 社外対応 | 立場の違う相手と話し合い、事実を確認して合意点を探る |
| 上司対応 | 進み具合を報告し、改善したい点を意見として伝える |
| 部下マネジメント | 後輩の得意分野を見て仕事を任せ、指導する |
※要素名は厚生労働省の9要素。右列は筆者の前職の業務を一般化した一例です(守秘義務に触れない表現にしています)。
こうして並べてみると、どの行も「税務」という専門分野を外しても意味が通ります。これがポータブルスキルの考え方です。
私は、職務経歴書の核心は「ポータブルスキルを言葉にできるかどうか」だと考えています。「〇〇部門に〇年」を「限られた時間で論点を絞り、立場の違う相手と合意点を探ってきた」と言い換える。同じ経験でも、語り方を変えるだけで伝わる相手が広がります。

✅ 今日からできる3つのアクション
①厚生労働省の「ポータブルスキル見える化ツール」を試す
職業情報提供サイト(job tag)で無料で使えます。9つの項目に、自分が得意だと思う程度に応じて29点の持ち点を割り振る形式で、入力にかかる時間は15分程度です。入力した数値と近い5つの職務、職位が表示されます。
このツールは2022年3月4日から提供されています(Impress Watch、2022年4月22日)。なお、厚生労働省はミドルシニア層のホワイトカラー職種の方の利用を想定し、キャリアコンサルタント等の支援者が相談支援で使うことを前提としています。結果は答えではなく、考えるきっかけとして使うのがよいと思います。
②「解決してきた課題」を3つ書き出す
在籍年数や部署名ではなく、「何が困っていて、自分が何をして、どうなったか」を1つにつき3行で書きます。書けたら、上の表の9要素のどれに当たるかを横にメモしておきましょう。
③今の仕事で、AIやデジタルを使った改善を1つ試す
使える範囲は職場のルールによって異なります。そのうえで、小さな事務作業の見直しでもかまいません。「課題を見つけて、道具を使って解決した」経験は、そのまま棚卸しの材料になります。
✅ この記事のポイント
- ポータブルスキルは、業種や職種が変わっても持ち運べる職務遂行上のスキル(厚生労働省)
- 要素は「仕事のし方」5つと「人との関わり方」4つの計9つ
- AI導入企業の7割超で、中途採用で求める人材像が変化(doda)
- 棚卸しは「ヒト軸(肩書き)」ではなく「コト軸(解決した課題)」で行う
- 見える化ツールは入力15分程度。まず試して、書き出しは3つから
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🌱 まとめ
公務員の仕事にも、民間で通用するスキルはあると私は考えています。足りないのはスキルそのものではなく、それを外の人に伝わる言葉に置き換える作業です。
AIの広がりで、求められるスキルは短いスパンで変わっていきます。だからこそ、一度きりではなく、定期的に自分の棚卸しをしておくことが、いざというときの支えになります。
転職活動は、ノーリスク。まずは踏み出す一歩を。
次回は「リスキリングにお金は出る?教育訓練給付金の仕組み」について解説予定です。お楽しみに!


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