資格は本当に必要か|元国税職員が見た「取る人・取らない人」のリアル
【この記事でわかること】
・公務員に資格取得の習慣がほとんどない理由
・民間企業に転職して驚いた、資格取得文化の違い
・それでも資格を取っておいたほうがいい理由とおすすめの資格
・相続税等の調査で見た「資格を持たない資産家たち」の話
・独占業務資格の裏側にある、意外と知られていないリスク
公務員時代、資格勉強をしている職員は、私の周りではほとんど見かけませんでした。忙しい業務の合間を縫って黙々と机に向かう私は、正直かなり珍しい存在でした。
「資格なんて、なくても仕事は回る」。これは決して怠けているわけではなく、公務員という職業の構造そのものが、そういう空気を作っています。今回は、なぜ公務員は資格を取らないのか、そして転職を考えるなら資格とどう向き合えばいいのかを、私自身の経験からお話しします。
公務員はなぜ資格を取らないのか
公務員は、業務の性質上、資格がなくてもほとんどの仕事を遂行できます。異動のたびに業務内容は変わりますが、それは「引き継ぎ」と「OJT」で対応する仕組みになっているからで、資格が業務の前提条件になっている場面はごく限られています。
だからこそ、日々の業務に追われる中で「資格を取る必要性」を感じる機会自体が少なくなります。人事評価の自己申告書にITスキル等を書く欄はありましたが、正直なところ、書いたからといって評価に直結する実感はあまりありませんでした。
ただ、「見かけない」には少しカラクリもあります。職場に知られたくないからと、資格の勉強をしていることを周りに言わない人も一定数いるのです。私自身、辞めようと思い始めてから、あるいは転職を意識し始めてから資格取得を進めたので、周りには一切言いませんでした。
💡 資格の取得を自己申告書に書くと、それはそれで一つのシグナルになります。「この人は辞めるかもしれない」という空気を、人事に伝えてしまう可能性があるからです。もっとも、その意図に気づかない・鈍感な人事担当者も少なくない、というのが正直な実感です。
そう考えると、勉強している人が周りにいないように見えるのは当然かもしれません。ただ、私は仕事柄、職員の経歴や保有資格に触れる機会がありましたが、実際に資格を持っている人は本当に少なかったというのが実感です。黙って勉強している人を差し引いても、公務員に資格を取る習慣が根付いていないのは確かだと思います。
民間に転職して驚いた、資格取得文化の違い
実際に民間企業に転職してみて、まず驚いたのが資格取得に対する温度差でした。業種にもよりますが、民間企業では資格取得を推進する文化がある会社が多く、公務員時代とは比べものにならないほど、資格を持っている人が身近にいます。
これは国家資格に限った話ではありません。たとえば簿記のような民間資格も含めて、「資格を取る」という習慣そのものが、民間企業にはある程度根付いています。公務員から転職する方は、この文化の違いに面食らうことがあるかもしれません。
もちろん、資格だけあっても実務経験が伴わなければ活かせないこともありますし、業務と関係のない資格を取っても評価されないケースもあります。それでも、資格は自分の能力を客観的に示す「一つのステータス」になりますし、資格取得の過程そのものが自信につながり、視野を広げてくれるという側面もあります。
✅ 公務員と民間の資格文化の違い
- 公務員:資格がなくても業務が回る。資格取得者は少数派
- 民間:業種を問わず資格取得を推進する文化がある会社が多い
- 対象は国家資格に限らない(簿記など民間資格も含む)
- 公務員から転職すると、この温度差に面食らうことがある
それでも資格を取っておいたほうがいい理由
公務員から民間への転職を考えるなら、私は資格を取っておくことをおすすめします。理由はシンプルで、資格は誰の目にも分かりやすい能力の証明であり、転職市場では「一つのステータス」として機能するからです。
おすすめは宅建士です。宅建業に就く・就かないに関わらず、民法の知識が身につき、実生活でも役に立ちます。もう一つはFP2級程度の知識です。投資を自分で判断する上で最低限必要な知識が身につきます(FP1級は日常用途としてはややオーバースペックというのが実感です)。
資格取得の時間確保は、特に残業の多い公務員にとって大きな負担になります。帰宅後や土日の勉強時間が、家族との時間を圧迫することもあります。無理をしてでも時間を作る必要はありますが、家庭の事情や体調によっては取得が難しい人もいるので、一概には言えません。
ちなみに、国税専門官には一定の経験年数を積むと税理士試験の一部科目(税法科目)が免除される制度があります。通算10年〜15年勤務すると税法科目が免除される一方、会計科目(簿記論・財務諸表論)は対象外で、別途自力で合格する必要があります。なお、通算23年以上の勤務に加えて係長以上の職に5年以上、国税審議会指定の研修修了という条件をすべて満たせば、会計科目を含む全科目が免除される道もありますが、単に「23年勤めれば」というだけで到達できるものではありません。この制度の詳しい要件や、私自身がこの道を選ばなかった理由は、転職エージェントの裏側と職務経歴書の書き方で詳しく書いていますので、気になる方はあわせてご覧ください。
💡 大事なのは「どう活かすか」
資格は持っているだけでは意味がありません。取得した資格を実務でどう活かすかという課題は、転職してからも続きます。資格はあくまでスタートラインであって、ゴールではないと自覚しておいたほうがいいです。
相続税等の調査で見た、資格を持たない資産家たち
ここまで「資格は取っておいたほうがいい」という話をしてきましたが、実は前職の経験から、少し違う角度の話もお伝えしたいと思います。
私は国税専門官として、相続税・譲渡所得・贈与税の調査を担当していた時期があります。相続税調査では、大きな財を築いたご本人はすでに亡くなっているため直接お会いすることはできませんが、相続人への聞き取りや資料を通じて、ご本人の経歴や資格の有無を把握することができます。一方、譲渡所得や贈与税の調査では、財を築いたご本人にご存命のうちに直接お会いする機会もありました。そうした調査の場を通じて感じたのは、裕福層は意外にも資格をほとんど持っていない人が多いということです。
財を築いた方々に共通していたのは、資格の有無ではなく「額に汗して」事業に取り組んできた姿勢でした。資格を取る時間よりも、若いうちから事業を大きくすること、様々な挑戦を重ねることに時間を使ってきた人が多い、というのが私の見立てです。大金持ちを目指すなら、資格取得とはまた別の力が必要なのだと痛感しました。
独占業務資格の裏側にあるリスク
もう一つ、あまり知られていない話をします。税理士のような「独占業務」を持つ資格は、その業務を独占できる代わりに、大きな責任やリスクも背負っています。実際、税理士法人や個人の税理士であっても、それだけで大金持ちになっているかというと、必ずしもそうではありません(医師など一部の専門職は事情が異なります)。
多くの個人系の社長は、資格がなくても、その人自身の生き様や気持ち——いわば「ハート」の部分で人を引きつけ、事業を発展させています。頭でっかちでないからこそ行動力があり、それが事業成功につながっている面があると感じます。
お金の稼ぎ方は、税金の知識と同じで、誰も教えてくれません。社長たちは、若い頃から数々の失敗を重ねながら、それを体得してきました。日本の教育でもお金の稼ぎ方は教えてくれないので、資格取得よりもよほど難しい領域だと思います。私自身、今は個人事業主として日々手探りで取り組んでいますが、この難しさを痛感しています。
🔍 「稼ぐ力」と「守る力」は分かれやすい
- 社長・個人事業主は「稼ぐ力」に長けていても、「税金の知識(守る力)」には無頓着な人がかなり多い
- どちらか一方に偏りがちな傾向がある
- だからこそ税理士のような独占業務のプロが存在する意義がある
- 自分の得意分野は自分でやり、苦手分野はお金を払って外部発注するのが合理的
個人事業主が「税務に強くなりたいから」と税理士資格を目指すのは、正直、本末転倒だと思います。餅は餅屋——得意な人にお願いしたほうが、時間もお金も有効に使えます。
✅ この記事のポイント
- 公務員は資格がなくても業務が回るため、資格取得者は少数派
- 民間企業には資格取得を推進する文化があり、転職すると温度差に驚くことがある
- 資格は「一つのステータス」「能力の証明」になるので、取っておいたほうがいい
- ただし大金持ちになっている人たちは、資格をほとんど持っていないケースが多い
- 独占業務資格には相応の責任・リスクも伴い、それだけで大成功できるとは限らない
- 資格なしで成功している個人事業主・経営者も多く、資格はあくまで「一つの物差し」
- サラリーマンからキャリアを始める立場にとって、資格は「心の支え」になる——資格が全てではないが、取ること自体は悪くない
まとめ
公務員は資格がなくても仕事が回る環境にあるため、資格取得の習慣が根付きにくい一方、民間企業には資格取得を推進する文化があります。転職を考えるなら、宅建やFP2級のような取得しやすい資格から始めておくと、能力の証明になり、自信にもつながります。
ただし、資格がすべてではありません。相続税調査の現場で出会った資産家たちの多くは、資格ではなく行動力と決断力で財を築いていました。独占業務資格を持つ専門職でさえ、それだけで大成功が約束されるわけではありません。資格はあくまで「一つの物差し」であり、サラリーマンから一歩踏み出す私たちにとっての”心の支え”だと捉えるのが、ちょうどいい距離感だと思います。転職活動は、ノーリスク。まずは踏み出す一歩を。
次回は「営業感覚編」について解説予定です。お楽しみに!


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