高校生の扶養控除は縮小される?大綱を確認した

【この記事でわかること】
・「高校生の扶養控除が縮小される」という話がどこから出てきたのか
・ネットで見かける具体的な削減案と、財務省の税制改正大綱の実際の記載内容の違い
・2026年9月時点で、この議論が実際どこまで進んでいるのか

「高校生の扶養控除が縮小されるらしい」——お子さんが高校生年代になったご家庭なら、こんな話を一度は目にしたのではないでしょうか。SNSやニュースサイトでは「所得税がいくら減って、住民税がいくら減って」と、かなり具体的な数字まで飛び交っています。
私は元国税局の職員で、路線価の評定業務や税務調査に長く携わってきました。この仕事で染みついた習慣が一つあります。それは「ネットで見た数字は、必ず一次資料に戻って確認する」ということです。今回、この扶養控除縮小の話も実際に財務省が公表している「税制改正の大綱」を全ページ読んでみました。すると、ネットの騒がれ方と大綱の中身に、思っていた以上の差があったのです。
📌 なぜ「高校生の扶養控除」が話題になっているのか
話の発端は、児童手当の拡充です。2024年10月分(12月支給)から、児童手当の対象が高校生年代(16歳〜18歳・18歳になる年度末まで)に広がりました。月額1万円(第3子以降は月3万円)が、所得制限なしで支給されています(こども家庭庁)。
あわせて、高校の授業料についても「高等学校等就学支援金制度」の改正で所得制限が撤廃され、私立高校を含めて実質無償化が広がっています(文部科学省)。
ここで出てくるのが「控除から給付へ」という発想です。もともと16歳以上の子どもには「扶養控除」という税金の軽減措置がありますが、児童手当という現金給付が手厚くなった以上、税制上の控除のほうは縮小してバランスを取るべきではないか——という議論が、与党の税制調査会などで続いてきました。ここまでは、政府・与党内で実際に交わされてきた議論の方向性であり、事実です。
📅 タイムラインで見る
児童手当が高校生年代まで拡充
「令和8年度税制改正の大綱」閣議決定

🔍 ネットで見かける「具体的な数字」の正体
検索すると、税理士事務所などが運営するサイトで「所得税の控除額が〇万円台まで下がる」「住民税は〇万円台まで下がる」といった、かなり踏み込んだ試算を目にします。年収別の増税額シミュレーションまで作られているものもありました。
これらのサイトに共通しているのは、「削減案(検討中)」「2025年12月中旬に発表予定の税制改正大綱で正式決定される見込み」という書き方をしている点です。つまり、2025年12月上旬〜中旬の時点ではまだ決定前の観測記事だったということです。
ここで大事なのは、その後実際に大綱が閣議決定されたとき、この話がどうなったかです。
📖 「令和8年度税制改正の大綱」を全ページ確認してみた
財務省の公式サイトに掲載されている「令和8年度税制改正の大綱」は、全9ページに分かれています。この全ページを対象に「扶養控除」という言葉が出てくる箇所を機械的に確認してみました。結果は次のとおりです。
| 項目 | ネットで見かける情報 | 大綱の原文を確認した結果 |
|---|---|---|
| 16〜18歳の扶養控除の縮小 | 具体的な削減額まで書かれた記事が多数 | 記載なし(「扶養控除」という語自体が登場しない) |
| 扶養親族の所得要件 | あまり話題にならない | 58万円→62万円に緩和(決定事項) |
| この要件緩和の適用時期 | – | 令和8年分の所得税から適用 |
念のため、その前年の「令和7年度税制改正の大綱」(全9ページ)も同じ方法で確認しましたが、こちらにも「扶養控除」の記載はありませんでした。
⚠️ 大綱に記載がある扶養親族の要件緩和とは、まったく別の話です
大綱で正式に決まったのは、「扶養に入れられる家族の所得の上限」を58万円から62万円に広げるという話です。これは扶養控除を受けられる対象の範囲を広げる方向の改正であり、16〜18歳の子どもに適用される控除額そのもの(現行38万円)を引き下げる話ではありません。この二つが混同されているケースも見受けられます。

🤔 結局、この議論はどうなった?
「大綱に載らなかった=完全に立ち消えた」と断言できるかというと、そこまでは言い切れません。ただ、少なくとも大綱が閣議決定された2025年12月26日の時点では、縮小案は正式な改正事項として採用されなかった、というのが一次資料から確認できる事実です。
もう一つ、参考になる動きがあります。大綱決定の3週間ほど前にあたる2025年12月5日、立憲民主党が公表した「2026(令和8)年度税制改正についての提言」には、次のような一文があります。
「高校生年代(16歳〜18歳)の扶養控除については、児童手当が子育て支援の観点から十分な額とならない限り、現行の扶養控除を存続させること」
子育て支援団体からも同様に「現状維持」を求める声が上がっていたことが、この提言書には記録されています。つまり、大綱決定の直前まで、扶養控除を縮小する方向に反対する意見が公に出されていた、ということです。控除から給付へのシフトという方向性自体は今も議論の土台として残っていますが、具体的にいつ・いくら縮小するかという結論は、少なくとも2026年9月時点ではまだ出ていません。
✅ この記事のポイント
- 「高校生の扶養控除縮小」の話は、児童手当拡充・高校無償化とセットで「控除から給付へ」の流れの中で検討されてきたもの
- ネットで見る具体的な削減額の試算は、2025年12月時点の観測記事によるもので、正式決定ではなかった
- 2025年12月26日閣議決定の「令和8年度税制改正の大綱」には、16〜18歳の扶養控除縮小に関する記載は一切ない(財務省サイト全9ページを直接確認)
- 大綱で実際に決まったのは、扶養親族の所得要件を58万円から62万円に広げる「要件緩和」で、控除額の縮小とは別の話
- 2026年9月時点でも縮小の是非は結論が出ておらず、今後の税制改正の議論を注視する必要がある
📝 まとめ
ネットに具体的な数字が出回っていると、それだけで「もう決まったこと」のように感じてしまいがちです。ですが、税制改正は与党の税制調査会での議論を経て、年末に「大綱」という形で方向性が示され、その後、通常国会での法案成立を経て確定します。今回の高校生年代の扶養控除縮小のように、報道された「検討案」の段階と、実際に決定した「大綱」の内容にズレが生じることは珍しくありません。
気になる制度改正があったときは、まず「これはどの段階の情報か」を確認する。この一手間が、思い込みによる不安や誤解を防いでくれます。自分で学ばないと、だれも教えてくれないからこのブログをきっかけに学ぼうと思っていただけると嬉しいです。
次回は「ひとり親控除、令和9年分から控除額が38万円に拡大」について解説予定です。お楽しみに!


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