任意後見と法定後見、何が違う?費用と2026年改正を解説
【この記事でわかること】
・任意後見と法定後見(成年後見・保佐・補助)、何がどう違うのか
・それぞれにかかる費用の具体的な目安(申立費用・報酬額)
・2026年6月成立の改正民法が、任意後見にも変更を加えている理由

「親が認知症になったら、後見人をつけないといけないんですよね?」——現職で遺言信託の実務に携わっていると、こういったご相談をよくいただきます。
ただ、後見制度には「任意後見」と「法定後見(成年後見・保佐・補助)」という、似ているようでまったく仕組みが違う2つの制度があります。しかも2026年6月17日に約26年ぶりの民法改正が成立し、法定後見だけでなく、実は任意後見の側にも見逃せない変更が加わりました。
元・国税局職員として財産管理・相続の現場で両制度に触れてきた経験と、現職の遺言信託実務、そして家族信託専門士の視点から、公的資料に基づいて整理していきます。
任意後見と法定後見、4つの観点で見る違い
成年後見制度は大きく「法定後見制度(後見・保佐・補助)」と「任意後見制度」の2つに分かれます。法務省「成年後見制度・成年後見登記制度Q&A」(法務省)と裁判所の「成年後見等申立ての手引」に基づき、4つの観点で整理すると次のとおりです。
| 比較する観点 | 法定後見(成年後見・保佐・補助) | 任意後見 |
|---|---|---|
| ① 開始のタイミング | 判断能力が不十分になった「後」 | 判断能力があるうちに契約、低下「後」に発効 |
| ② 後見人等を選ぶ主体 | 家庭裁判所(希望どおりとは限らない) | 本人自身(契約で自由に指定) |
| ③ 家庭裁判所の関与 | 直接的・強力(定期報告義務、居住用不動産処分は事前許可制) | 間接的(任意後見監督人を介した監督) |
| ④ 本人の意思の反映度 | 限定的(「補助」の開始・代理権付与のみ本人同意が必須) | 極めて高い(受任者・委任内容を本人が決定) |
出典:法務省「成年後見制度・成年後見登記制度Q&A」Q1・Q2、裁判所「成年後見等申立ての手引」・「任意後見監督人選任」
つまり任意後見は「元気なうちの保険」、法定後見は「困ってからの後始末」という位置づけです。両方とも本人を法律的に支える点は共通していますが、入口となるタイミングが真逆という点が最大の違いです。

法定後見にかかる費用の目安
法定後見の費用は「申立時に一度だけかかる実費」と「開始後に継続してかかる報酬」の2階建てです。
| 申立時の費用 | 金額の目安 |
|---|---|
| 収入印紙(申立手数料) | 800円(保佐・補助+代理権等の付与を伴う場合は1,600〜2,400円) |
| 登記手数料 | 2,600円 |
| 郵便切手 | 4,000〜5,000円程度(家庭裁判所により異なる) |
| 鑑定費用(必要な場合のみ) | 5万〜10万円程度 |
鑑定費用は、家庭裁判所が本人の判断能力について医師の鑑定を必要と判断した場合にのみ発生します。最高裁判所「成年後見関係事件の概況」によれば、実際に鑑定が実施されるのは全体の約3.4%にとどまり、多くの場合は診断書のみで審理されます(出典:裁判所公表統計)。
継続的にかかるのが、成年後見人等(後見人・保佐人・補助人)への報酬です。これは家庭裁判所が管理財産額をもとに毎年審判で決定するもので、東京家庭裁判所・東京家庭裁判所立川支部が公表する「成年後見人等の報酬額のめやす」(平成25年1月1日付)に、次のとおり明記されています。
| 管理財産額 | 成年後見人等の基本報酬(月額) | 後見監督人の基本報酬(月額) |
|---|---|---|
| 1,000万円以下 | 2万円 | 1万〜2万円 |
| 1,000万円超〜5,000万円以下 | 3万〜4万円 | 1万〜2万円 |
| 5,000万円超 | 5万〜6万円 | 2.5万〜3万円 |
出典:東京家庭裁判所「成年後見人等の報酬額のめやす」(同資料には「保佐監督人、補助監督人、任意後見監督人も同様」と明記されています)
なお、遺産分割調停や居住用不動産の任意売却など特別な事務を行った場合は、基本報酬に加えて「付加報酬」が発生することがあります(東京・横浜・大阪・奈良家庭裁判所の運用に基づく例として、居住用不動産の任意売却で約40万〜70万円、遺産分割調停で約55万〜100万円が付加された例が示されています)。
親族が後見人等になった場合、報酬付与の申立てをしなければ報酬は発生しません。ただし管理財産が高額な場合は、家庭裁判所の判断で専門職の後見監督人が付き、その報酬だけは発生し続けることがある点は押さえておきたいところです。
任意後見にかかる費用の目安
任意後見の費用は「契約締結時」「監督人選任申立時」「発効後」の3段階で発生します。
| 段階 | 内容 | 金額の目安 |
|---|---|---|
| ① 契約締結時 | 公証人手数料+登記関連費用(公正証書での作成が法律上必須) | 実費合計 2万〜3万円程度 |
| ② 監督人選任申立時 | 判断能力低下後、家庭裁判所へ任意後見監督人選任の申立て | 実費合計 1万円前後 |
| ③ 発効後(継続) | 任意後見人報酬(契約で自由に設定)+任意後見監督人報酬(家裁が決定) | 監督人報酬は月額1万〜3万円程度 |
出典:日本公証人連合会・裁判所「任意後見監督人選任」公表資料
ここが法定後見と決定的に違うところです。任意後見人自身への報酬は、契約で本人と受任者が自由に決められます。家族が引き受ける場合は無報酬とする例も少なくありません。一方で、任意後見監督人は原則として必ず選任され、その報酬(法定後見の後見監督人と同じ基準)だけは本人が亡くなるまで発生し続けます。「家族に頼めば費用はゼロ」ではない点は、事前に押さえておく必要があります。

2026年民法改正、任意後見にも変更が入っている
2026年6月17日、成年後見制度の見直しを含む改正民法(民法等の一部を改正する法律・令和8年法律第45号)が成立しました(法務省)。施行は公布日(2026年6月24日)から2年6か月以内、遅くとも2028年12月24日までの見込みです。
法定後見側の改正(後見・保佐が廃止され「補助」に一本化、事実上の終身制が廃止)については、こちらの記事で詳しく解説していますが、実はこの改正、法務省が公表した概要資料によると任意後見制度そのものにも「柔軟な利用を可能にすること」を目的とした見直しが含まれています。
「第1順位の人が欠けるまでは第2順位を発動させない」という合意を公正証書で結べるようになる(改正任意後見契約法第4条)
家庭裁判所が「明らかに監督の必要がない」と認める場合に限り、監督人を選任せず家裁が直接監督することが可能に(同法第7条5項)
現行は法定後見が始まると任意後見契約が終了するが、改正後は「補助」の利用を開始しても任意後見契約が存続できるようになる(同法第5条等・現行第4条1項2号等の削除による)
現行は本人の判断能力が低下した際に任意後見契約を発効させる家裁への申立てができるのは親族か任意後見受任者に限られるが、改正後は本人が公正証書であらかじめ指定した第三者も申立てできるようになる(同法第5条・第6条)
出典:法務省「民法等の一部を改正する法律」(成年後見及び遺言の制度の見直し)について、法務省民事局「民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)概要」
②の「監督人を選任しない例外」は、任意後見のランニングコストである監督人報酬の負担を軽くする可能性がある改正です。ただしあくまで「明らかに必要がない」場合に限った例外扱いであり、原則は引き続き監督人が選任されます。「改正で監督人費用が必ずゼロになる」という理解は正確ではない点に注意してください。
✅ この記事のポイント
- 任意後見は「元気なうちに契約」、法定後見は「判断能力低下後に申立て」と、入口のタイミングが逆
- 法定後見の報酬は管理財産1,000万円以下で月額2万円〜が目安(東京家庭裁判所公表基準)
- 任意後見は本人の報酬は自由に設定できるが、監督人報酬(月額1万〜3万円程度)は家裁が決め、原則として発生し続ける
- 2026年改正は法定後見の一本化だけでなく、任意後見にも「予備受任者」「監督人不選任の例外」「法定後見との併存」という3つの変更が入る
まとめ
任意後見と法定後見は、名前は似ていても「誰が・いつ後見人を決めるか」がまったく異なる制度です。任意後見は元気なうちにしか選べない、いわば期間限定の選択肢。判断能力が低下してからでは、家庭裁判所が選ぶ法定後見しか使えません。
費用面でも、法定後見は家庭裁判所が管理財産額に応じて報酬を決める一方、任意後見は契約の自由度が高い分、監督人報酬という見落としやすいランニングコストがあります。どちらが良い・悪いではなく、ご自身やご家族の状況に合わせて、判断能力があるうちに検討しておくことが何より大切です。
自分で学ばないと、だれも教えてくれないからこのブログをきっかけに学ぼうと思っていただけると嬉しいです。


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