相続発生後の実務手続き一覧|期限を時系列でわかりやすく解説

【この記事でわかること】
・相続発生後、いつまでに何をすべきか(死亡届から相続税申告までの時系列)
・銀行口座が凍結される仕組みと、凍結前でも一部のお金を引き出せる「仮払い制度」
・不動産の名義変更(相続登記)が義務化された期限と、期限に間に合わないときの救済策
身内が亡くなった直後は、悲しみに向き合う間もなく「何を」「いつまでに」やればいいのか分からず、途方に暮れてしまう方が少なくありません。役所への届出、年金の手続き、銀行口座の解約、不動産の名義変更、そして相続税の申告——。相続の実務手続きは種類が多いうえに、それぞれ期限も窓口もバラバラです。私は国税専門官として税務署・国税局に16年以上勤務し、現在は信託実務として遺言執行者・遺産整理受任者を担当し、相続の実務に携わっています。今回は、死亡直後から相続税申告までにやるべきことを、時系列に沿って整理してお伝えします。
📅 相続手続きの法定期限タイムライン
死亡を知った日から。市区町村役場へ提出
厚生年金は10日・国民年金は14日以内
相続の開始を知った時から。家庭裁判所へ申述
相続の開始を知った日の翌日から。故人の所得税を申告
死亡を知った日の翌日から。基礎控除超の場合
不動産の取得を知った日から。過ぎると10万円以下の過料
※起算日は手続きごとに異なります(詳細は本文参照)。出典:法務省・国税庁・日本年金機構の各公式資料

①死亡から2週間以内|届出関係を最優先で
まず最優先なのが死亡届です。死亡の事実を知った日から7日以内に、死亡者の本籍地・届出人の所在地・死亡地のいずれかの市区町村役場へ提出します(戸籍法第86条)。死亡届を出さないと火葬許可証が発行されないため、通常は葬儀会社が代行してくれることが多いですが、期限があることは覚えておきましょう(出典:法務省「死亡届の記載例・記載要領」)。
故人が年金を受給していた場合は、年金受給権者死亡届(報告書)の提出も必要です。期限は国民年金(第1号被保険者)が14日以内、厚生年金(第2号被保険者)が10日以内と短く設定されています。ただし、故人が生前にマイナンバーを日本年金機構に登録していた場合は、市区町村への死亡届の情報が自動連携されるため、この届出は原則不要です(出典:日本年金機構「年金を受けている方が亡くなったとき」)。
届出を省略できた場合でも、まだ受け取っていない年金(未支給年金)は自動的には振り込まれません。請求権の時効は年金支払日の翌月初日から5年(厚生年金保険法第92条第1項・国民年金法第102条第1項)なので、忘れずに請求しましょう。
| 手続き | 期限 | 根拠法令 |
|---|---|---|
| 死亡届 | 死亡を知った日から7日以内 | 戸籍法第86条 |
| 年金受給停止(国民年金) | 死亡日から14日以内 | 日本年金機構の定め |
| 年金受給停止(厚生年金) | 死亡日から10日以内 | 日本年金機構の定め |
| 未支給年金の請求 | 支払日の翌月初日から5年(時効) | 厚生年金保険法92条・国民年金法102条 |
②3ヶ月以内|相続放棄の判断と、凍結された口座からお金を引き出す方法
故人に借金があるかもしれない、そもそも相続するかどうか迷っている——という方は、相続放棄・限定承認を自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所へ申述する必要があります(民法第915条第1項)。この期限内に判断できないと、自動的に「単純承認」(プラスもマイナスもすべて相続する)とみなされてしまうため、財産調査に時間がかかりそうな場合は、家庭裁判所への期間伸長の申立ても検討してください。
一方、故人名義の銀行口座は、金融機関が死亡の事実を把握した時点で凍結されます。葬儀費用や当面の生活費でお金が必要なのに、遺産分割協議が終わるまで一切引き出せない——というのは大きな不安材料ですが、遺産分割前の預貯金払戻し制度(仮払い制度)を使えば、遺産分割協議を経ずに一部を引き出せます(民法第909条の2)。
🔍 仮払いできる金額の計算式
相続開始時の預貯金残高 × 1/3 × 払い戻す相続人の法定相続分
ただし、同一の金融機関からは150万円が上限です(平成30年法務省令第29号)。複数の支店に口座があっても合算で150万円までですが、別の金融機関であれば、そちらでも別途150万円まで払い戻せます。
出典:全国銀行協会「ご存じですか?遺産分割前の相続預金の払戻し制度」

③4ヶ月以内|準確定申告と、並行して進める遺産分割協議
故人が生前に事業所得や不動産所得、給与以外の副収入があった場合、故人に代わって所得税の確定申告(準確定申告)を行う必要があります。期限は相続の開始があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内(所得税法第124条)で、通常の確定申告のように毎年3月15日固定ではない点に注意が必要です。提出先も、相続人自身の住所地ではなく故人が亡くなった時点の住所地を管轄する税務署になります(出典:国税庁「No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)」)。
この期間と並行して、相続人全員で「誰が何を相続するか」を話し合う遺産分割協議を進めます。この協議がまとまらないと、後述する不動産の名義変更や、相続税の特例適用に影響が出るため、早めに着手するのが得策です。
④不動産の名義変更(相続登記)と相続税の申告
2024年4月1日から、不動産の相続登記(名義変更)が義務化されました。不動産の取得を知った日から3年以内に法務局へ登記申請をしないと、正当な理由がない限り10万円以下の過料が科される可能性があります(不動産登記法第76条の2・第164条第1項)。この義務化は過去の相続にもさかのぼって適用され、2024年3月以前に発生した相続についても2027年3月31日が期限です(出典:法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」)。
遺産分割協議が長引いて3年以内の登記が難しい場合の救済策が相続人申告登記です。相続人のうち1人が単独で「自分が相続人です」と法務局に申し出るだけで、義務を一時的に果たしたとみなされ、登録免許税もかかりません(不動産登記法第76条の3)。ただし、これはあくまで暫定的な報告にすぎず、不動産の売却や担保設定はできません。遺産分割協議がまとまったら、その日から3年以内に改めて正式な相続登記が必要になります(出典:法務省「相続人申告登記について」)。
そして、相続財産の合計額が基礎控除額を超える場合は、相続税の申告・納付を被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月以内に行う必要があります(相続税法第27条)。遺産分割協議が未了でも申告期限自体は延びないため、間に合わない場合は「未分割」のまま申告し、後日修正するといった対応が必要になります(出典:国税庁「相続税の申告書等の様式一覧」)。
✅ この記事のポイント
- 死亡届(7日)と年金停止の届出(10〜14日)は最優先で対応する
- 口座は凍結されるが、仮払い制度(同一金融機関150万円上限)で当面の資金は確保できる
- 相続放棄の判断は3ヶ月、準確定申告は4ヶ月、相続税申告は10ヶ月が期限
- 不動産の名義変更(相続登記)は3年以内が義務。間に合わなければ相続人申告登記で一時的に過料を回避できる

まとめ|期限を知っていれば、慌てずに一つずつ進められる
相続の実務手続きは数が多く期限もバラバラですが、裏を返せば「今どの期限が一番近いか」さえ把握できれば、優先順位を持って一つずつ片付けていけます。すべてを自分ひとりで抱え込む必要はありません。分からないことがあれば、金融機関の相続窓口や司法書士・税理士など専門家に相談しながら、着実に進めていきましょう。
次回は、相続登記を自分で行う場合に実際どんな書類を集め、どう申請書を書けばいいのか、具体的な手順について解説予定です。お楽しみに!


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