家族信託とは?成年後見との違いをやさしく解説
【この記事でわかること】
・家族信託の基本の仕組み(委託者・受託者・受益者)
・成年後見制度との3つの違い(柔軟性・身上監護・家庭裁判所の関与)
・公証人手数料・登録免許税など実際にかかる費用の目安
「もし親が認知症になったら、実家の売却も、預金の引き出しもできなくなるかもしれない」——そんな不安を抱えたことはありませんか。私は家族信託専門士の資格を持ち、現職では遺言信託に関する実務にも携わっています。相談の現場でいちばん多いのが「成年後見制度と何が違うの?」という疑問です。この記事では、家族信託の基本の仕組みから成年後見制度との違い、実際にかかる費用まで、法令・裁判所資料など公的な資料に基づいて整理してご紹介します。
家族信託とは?「委託者・受託者・受益者」の3つの役割
家族信託は、法律上は「民事信託」と呼ばれる制度です。信託業を営む信託銀行等が扱う商事信託とは異なり、家族間の契約として設計できるのが特徴です。信託法に基づき、次の3つの役割で構成されています。
| 役割 | 内容 |
|---|---|
| 委託者 | もともと財産を所有し、管理を託す人 |
| 受託者 | 託された財産を管理・処分する人(多くは子など家族) |
| 受益者 | 信託財産から生じる利益(生活費や家賃収入など)を受け取る人 |
信託法26条は「受託者は、信託財産に属する財産の管理又は処分及びその他の信託の目的の達成のために必要な行為をする権限を有する」と定めています。受託者には信託財産を管理・処分する広い権限がある一方で、信託法30条の「受益者のため忠実に信託事務の処理その他の行為をしなければならない」という忠実義務や、信託法34条の分別管理義務など、受益者を守るための義務も課されています。家族信託の多くは、委託者自身が受益者を兼ねる「自益信託」の形をとり、親が自分の生活費や介護費用のために子に財産を管理してもらう、という設計が一般的です。
成年後見制度との3つの違い
判断能力の低下に備える制度として、成年後見制度もよく比較されます。裁判所事務総局家庭局が公表した「成年後見関係事件の概況(令和7年1月〜12月)」によると、後見開始・保佐開始・補助開始・任意後見監督人選任の申立件数の合計は43,159件(前年41,841件・約3.2%増)、令和7年12月末時点の利用者数は259,901人(前年253,941人・約2.3%増)です。後見等が必要になった原因としては認知症が全体の約61.3%を占めており、決して他人事とはいえない数字です。
両制度の違いを整理すると、次の通りです。
| 項目 | 成年後見制度 | 家族信託 |
|---|---|---|
| 開始のタイミング | 判断能力が低下した後、家庭裁判所へ申立て | 判断能力があるうちに契約を締結 |
| 財産の自由度 | 財産保全が基本。資産運用・売却は原則不可 | 契約内容の範囲で柔軟に運用・売却が可能 |
| 身上監護(介護施設の契約等) | できる | 原則できない(財産管理のみ) |
| 家庭裁判所の関与 | 開始から終了まで常に関与 | 原則関与なし(家族間の契約で運営) |
成年後見制度は本人の財産を「守る」ことが最優先されるため、相続税対策のための資産運用や不動産の売却は原則として認められません。一方、家族信託は契約であらかじめ「必要になれば実家を売却してよい」と定めておけば、判断能力が低下した後も家族の判断で実行できます。ただし家族信託には身上監護権がありません。介護施設への入所契約や医療行為への同意が必要な場面では、成年後見制度の利用や併用を検討することになります。
資料:成年後見関係事件の概況(令和7年1月〜12月・裁判所)
家族信託にかかる費用の目安
費用面も気になるところです。信託契約を公正証書で作成する場合、公証役場へ支払う手数料は、公証人手数料令第9条の別表で信託財産の価額に応じて定められています。さらに、信託財産の価額が1億円以下の場合は、同令第22条の2により基本手数料に1万3,000円が加算されます。
| 信託財産の価額 | 基本手数料 |
|---|---|
| 50万円以下 | 3,000円 |
| 50万円超〜100万円以下 | 5,000円 |
| 100万円超〜200万円以下 | 7,000円 |
| 200万円超〜500万円以下 | 1万3,000円 |
| 500万円超〜1,000万円以下 | 2万円 |
| 1,000万円超〜3,000万円以下 | 2万6,000円 |
| 3,000万円超〜5,000万円以下 | 3万3,000円 |
| 5,000万円超〜1億円以下 | 4万9,000円 |
※上記に加え、信託財産の価額が1億円以下の場合は1万3,000円を加算(1億円超の場合は加算なし・区分の詳細は公証人手数料令第9条別表を参照)
不動産を信託財産に含める場合は、登録免許税もかかります。委託者から受託者への財産権の移転登記そのものは登録免許税法7条により非課税ですが、あわせて行う「信託の登記」には課税され、税率は土地が固定資産税評価額の0.3%(軽減措置・令和11年3月31日まで)、建物が0.4%(本則)です。
このほか、司法書士など専門家への設計・手続き報酬がかかります。報酬体系は定額制・変動制(信託財産額に応じた割合制)など事務所によってさまざまで、法律で決まった統一基準があるわけではありません。依頼前に複数の事務所から見積もりを取り、「実費(公証人手数料・登録免許税など)」と「専門家報酬」を分けて確認することをおすすめします。
資料:公証人手数料令(e-Gov法令検索)/登録免許税法(e-Gov法令検索)
家族信託が向いている人・知っておきたい注意点
私は現職で遺言信託に関する実務にも携わっていますが、相談の現場でよく感じるのは「家族信託か、成年後見か」を二択で考えすぎている方が多いということです。実家の売却や賃貸経営など資産の積極的な活用を考えておきたいなら家族信託、介護施設の契約まで含めて任せたいなら成年後見制度、というように目的に応じて使い分ける、あるいは併用するのが実務上は自然な形です。
なお成年後見制度でも、後見人による使い込みを防ぐしくみとして「後見制度支援信託」「後見支援預金」が用意されています。日常的に使う金銭は親族後見人が管理し、それ以外のまとまった金銭は信託銀行等に信託・預金し、払い戻しには家庭裁判所の指示書が必要になる仕組みです。成年後見制度は2026年に大きな見直しが行われていますので、詳しくは別記事もあわせてご覧ください。
✅ この記事のポイント
- 家族信託は「委託者・受託者・受益者」の契約。判断能力があるうちに準備する制度
- 成年後見制度との違いは「柔軟性」「身上監護の有無」「家庭裁判所の関与」の3点
- 費用は公証人手数料+(不動産があれば)登録免許税+専門家報酬。実費と報酬を分けて見積もりを比較する
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まとめ:判断能力があるうちに、家族で話し合っておく
家族信託も成年後見制度も、「誰かが困ったときのため」ではなく「元気なうちに備える」制度です。仕組みは複雑に見えますが、委託者・受託者・受益者という3つの役割と、成年後見制度との違いさえ押さえれば、家族での話し合いの土台はつくれます。自分で学ばないと、だれも教えてくれないからこのブログをきっかけに学ぼうと思っていただけると嬉しいです。
次回は「遺言書の基本|公正証書遺言と自筆証書遺言、どちらを選ぶべきか」について解説予定です。お楽しみに!


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