脱退一時金とは?帰国する外国人の年金|上限5年→8年に改正
【この記事でわかること】
・脱退一時金の支給上限が5年(60か月)から8年(96か月)に引き上げられること
・再入国許可を持ったまま出国すると請求できなくなる新ルール
・受け取るときに20.42%源泉徴収される税金と、還付を受ける方法
「外国人スタッフから、年金の一時金の制度が変わるらしいけど本当かと聞かれた」「国際結婚した友人の配偶者が、帰国前に何か手続きが必要だと言っている」。そんな話を耳にした方もいるのではないでしょうか。
2025年6月20日に公布された年金制度改正法には、日本で働く外国人が対象の「脱退一時金」という制度の見直しも含まれています。支給される金額の上限が広がる一方、これまでのように気軽に一時帰国のたびに受け取れる制度ではなくなります。
📌 脱退一時金とは?
脱退一時金は、日本国籍を有しない方が国民年金・厚生年金保険の被保険者資格を喪失して出国した場合に、保険料を納めた期間に応じて受け取れる一時金の制度です。外国人は日本での滞在期間が短く、保険料を納めても老齢年金の受給資格期間(10年)に届きにくいという事情を踏まえてつくられました。一時金を受け取ると、それまでの被保険者期間は消滅し、将来の老齢年金には結びつかなくなります。
主な支給要件は次のとおりです。
- 日本国籍を有していない
- 公的年金制度(厚生年金保険・国民年金)の被保険者でない
- 保険料納付済期間等の月数の合計が6か月以上ある
- 老齢年金の受給資格期間(10年)を満たしていない
- 障害年金などの受給権を有したことがない
- 日本国内に住所を有していない
請求期限は、最後に被保険者資格を喪失した日(資格喪失時に国内に住所があった場合は、その後住所を有しなくなった日)から2年以内です。この期限を過ぎると請求できなくなるため、出国前に必ず確認しておきたいポイントです。
支給額は加入期間の月数に応じて計算されます。国民年金の脱退一時金の場合、令和8年度の具体的な金額は以下のとおりです。
| 保険料納付済期間等の月数 | 支給額(令和8年度) |
|---|---|
| 6か月以上12か月未満 | 53,760円 |
| 18か月以上24か月未満 | 161,280円 |
| 36か月以上42か月未満 | 322,560円 |
| 60か月以上 | 537,600円 |
出典:日本年金機構「脱退一時金の制度」(nenkin.go.jp)より一部抜粋。厚生年金保険の脱退一時金は計算方法が異なります(平均標準報酬額×支給率)。
🔍 2025年改正で何が変わる?
2025年6月20日に公布された「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律」により、脱退一時金制度は2つのポイントで見直されます。
| 項目 | 現行 | 改正後 |
|---|---|---|
| 支給額計算の月数上限 | 5年(60か月) | 8年(96か月) |
| 再入国許可を得て出国した場合 | 許可の有効期間中でも請求できる | 許可の有効期間中は請求不可 |
①の支給上限引き上げは、外国人の滞在期間が長期化していることが背景にあります。5〜10年滞在した外国人の割合は、2020年の約6%から2023年には約18%に増加しました。また、技能実習制度に代わって創設が予定される「育成就労制度」(3年)を経て「特定技能1号」(5年)に移行すると、通算で8年ほど日本に滞在する人が増えると見込まれていることも理由の一つです。
②の見直しは、将来の年金受給に結びつけやすくする狙いです。現行制度では、再入国許可を得て一時帰国した際にも脱退一時金を受け取れてしまい、受給するとそれまでの加入期間が消えてしまいます。改正後は、日本に戻るつもりがある(=再入国許可を持っている)間は請求できなくなり、完全に日本を離れる「単純出国」(在留カードを返納するなどして在留資格を失効させる出国)をして初めて請求できるようになります。再入国許可を得ないまま許可期限が過ぎた場合は、その時点で受給が可能です。
📅 施行日はいつ?
結論からいうと、この2つの見直しの施行日は、本記事執筆時点(2026年9月)でまだ決まっていません。法律の附則で「公布の日(2025年6月20日)から起算して4年を超えない範囲内において政令で定める日」とされているためです。
📅 施行スケジュールで見る
法律が公布
現時点で未定
法律上の最終期限
「2026年4月に施行される」という情報がインターネット上に見られますが、これは同じ改正法に含まれる別の項目(被用者保険の適用拡大の一部など)の施行日と混同したものです。脱退一時金の見直しについては、政令が出るまで具体的な日付は確定しません。制度を利用する予定がある方は、今後の政令の公布状況を確認するようにしましょう。
💰 受け取るときの税金に要注意
脱退一時金は「もらったら終わり」ではありません。特に厚生年金保険の脱退一時金は、受け取る段階で税金が関わってきます。元国税専門官として、実務でも押さえておきたいポイントを整理します。
| 脱退一時金の種類 | 源泉徴収 | 還付の可否 |
|---|---|---|
| 国民年金の脱退一時金 | なし | – |
| 厚生年金保険の脱退一時金 | 20.42% | 確定申告で還付を受けられる場合あり |
厚生年金保険の脱退一時金は税法上「退職手当等」として扱われ、支払われる金額の20.42%(所得税および復興特別所得税)が源泉徴収されます。これは原則としてこの源泉徴収だけで課税関係が完結する「源泉分離課税」という仕組みです。
ただし、「退職所得の選択課税」(所得税法第171条)という申告書を提出すれば、居住者として受け取ったものとみなして計算した税額との差額の還付を受けられる場合があります。加入期間が短いほど退職所得控除の効果で税額が小さく計算されやすいため、源泉徴収された金額の相当部分が戻ってくるケースもあります。ただし還付される金額は加入期間や金額によって個々に異なるため、正確な金額は税務署や税理士など専門家にご確認ください。
この還付を受けるための実務上の注意点は次の2つです。
💡 出国前に済ませておきたい手続き
日本国内に住所がなくなると、税務署とのやり取りの窓口として「納税管理人」を選任する必要があります。出国前に「所得税・消費税の納税管理人の選任届出書」を納税地の税務署へ提出し、還付金の受け取りや書類のやり取りを代行してもらえる人(法人でも個人でも可)を決めておきましょう。
申告書は「申告書第一表・第二表」に加えて「申告書第三表(分離課税用)」を使用します。国税庁が公開している記載例(「退職所得の選択課税の記載例②厚生年金の脱退一時金」)を参考に、納税管理人を通じて手続きを進めます。
✅ この記事のポイント
- 脱退一時金の支給上限が5年(60か月)から8年(96か月)に引き上げられる
- 再入国許可を持ったまま出国すると、その有効期間中は請求できなくなる
- 施行日は「公布から4年以内の政令で定める日」で、2026年9月時点ではまだ未定(法律上の最終期限は2029年6月19日)
- 厚生年金保険の脱退一時金は20.42%源泉徴収されるが、納税管理人を選任して確定申告すれば還付を受けられる場合がある
- 請求期限は被保険者資格を喪失した日(国内住所があれば、住所を有しなくなった日)から2年以内
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🌱 まとめ
脱退一時金の支給上限が8年に広がることは、長く日本で働いた外国人にとって前向きな変更です。一方で、再入国許可を持ったまま一時帰国するたびに一時金を受け取るという使い方はできなくなり、税金の還付手続きも自分だけでは完結しません。制度が変わる過渡期だからこそ、正確な情報を押さえておくことが大切です。
自分で学ばないと、だれも教えてくれません。このブログをきっかけに、身近な年金制度を少しずつ学んでいただけると嬉しいです。
次回は「社会保障協定とは?脱退一時金との違い」について解説予定です。お楽しみに!


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