「税金を取る側」だった|元国税職員が知らなかった営業の感覚

【この記事でわかること】
・税務職員に「営業」という発想がそもそもなかった理由
・公務員と民間企業で「評価される基準」がどう違うか
・国税専門官の経験が、営業でなくても意外に役立った場面

「元国税専門官なら、営業もすぐできそうですね」——民間企業に転職してから、何度か言われたことがあります。正直に言うと、これほど的外れな期待もなかったな、というのが実感です。
税務職員は、税金を「取る」側の仕事です。相手に何かを「買ってもらう」「契約してもらう」という発想は、そもそも仕事の中に存在しません。むしろ、営業されたら身構えるくらいの距離感で仕事をしてきました。公務員から民間企業へ転職して、私が一番面食らったのは、この「営業感覚」というもの自体が自分の中にまったく入っていなかったことです。
公務員→民間転職の体験談シリーズ第3弾。今回は、税金を徴収する側にいた人間が、利益を生み出す側の世界に来て何を感じたかを、ありのまま書いていきます。
「税金を取る」側にいた頃、営業という発想がなかった
税務職員の仕事は、法律にもとづいて正しく税額を計算し、正しく徴収することです。相手に「この商品はいかがですか」と勧めることも、契約を取ることも、成果を売上で評価されることもありません。税務職員にも、調査件数や追徴税額といった「実績」が人事評価に一切関係しないわけではありません。ただしそれは、あくまで法令にもとづいて正しく処理した結果としての実績であり、「いくら稼いだか」を追いかけて自分から働きかける、という発想には結びつきませんでした。evaluate(評価)の基準の軸足は、あくまで「ミスなく、公平に、前例どおりに処理できたか」にありました。
だから民間企業に来て、最初にぶつかったのは「営業のやり方がわからない」という技術的な壁ではありません。それ以前の話として、「利益を生み出すために、自分から動く」という発想そのものが自分の中に存在しなかったという、もっと根っこの部分でのつまずきでした。相続税調査の現場で長年働いてきましたが、あれは「調べる」「確認する」仕事であって、「売り込む」仕事では一度もありませんでした。

民間に来て気づいた、「評価される基準」の違い
転職して痛感したのは、公務員と民間企業では「何をもって仕事ができたと評価するか」の物差しがまったく違うということです。若手向けキャリア支援サービス「アゲルキャリア」の解説記事でも、この違いが端的に整理されていました。
| 評価の軸 | 公務員(税務職員) | 民間企業 |
|---|---|---|
| 重視されるもの | プロセス・公平性 | 利益への貢献・目標達成率 |
| 求められる結果 | 前例どおり・ミスなく処理 | 数値化できる成果 |
| 意思決定の進め方 | 法令・前例に沿って慎重に調整 | まず動いて、結果を見て修正 |
出典:アゲルキャリア「公務員から民間企業へ転職する際の面接対策」をもとに作成
「公平性」や「前例どおり」は、税務行政では絶対に必要な価値観です。恣意的な判断で税額が変わってしまっては困りますから、あの慎重さ自体は間違っていません。ただ、その価値観のまま民間企業に来ると、「まず動いてみる」「仮説を立てて修正する」というスピード感に、最初はかなり戸惑いました。
⚠️ 一つ補足しておきたいこと
これは「公務員の仕事のやり方が劣っている」という話ではありません。税務行政に仮説検証型のスピード感を持ち込んだら、それこそ大問題です。英国のキャリア移行支援企業Renovoの解説でも、公共部門と民間部門の間には今もマインドセットの差があり、その差を自覚して橋渡しできるかどうかが転職成功の分かれ目になる、という趣旨の指摘がされています。あくまで「求められる物差しが違う」というだけの話です。

国税専門官の経験が、意外と民間で役立った場面
ここまで「なかったもの」の話ばかりしてきましたが、逆に「意外と通用したもの」もありました。それは、相手の懐に入って事実関係を確認し、話を整理しながら折衝していく経験です。
相続税調査では、初対面の相手(それも、こちらを歓迎していない相手であることがほとんどです)から、限られた時間で正確な事実を引き出し、法令にあてはめて説明し、納得してもらう必要があります。この「初対面の相手の懐に入り、事実を確認し、筋道立てて説明する」という一連の動きは、営業そのものではないにせよ、民間企業の折衝の場面でもある程度そのまま活きる感覚でした。
✅ この記事のポイント
- 税務職員には「営業して利益を得る」という発想がそもそも存在しない
- 公務員は「プロセス・公平性」、民間企業は「利益への貢献・目標達成率」で評価される
- 「まず動いて、結果を見て修正する」スピード感の違いに最初は戸惑う
- 相手の懐に入り事実を確認する折衝力は、営業でなくても意外と通用する
📚 あわせて読みたい(公務員→民間転職シリーズ)
まとめ
税金を「取る」側にいた人間には、「営業して利益を得る」という発想がそもそもありませんでした。公務員と民間企業では評価される物差しがまったく違い、最初は戸惑うことばかりです。それでも、公務員時代に培った「相手の懐に入り、事実を確認し、筋道立てて説明する」経験は、形を変えて民間でも活きました。足りない発想は転職後に身につければいい。むしろ大事なのは、自分の中にあるものが民間でどう活きるかを探す姿勢だと思います。
転職活動は、ノーリスク。まずは踏み出す一歩を。
次回は「黒字でもリストラされる時代|『安定』の定義が変わった2026年の転職市場」について解説予定です。お楽しみに!


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