インボイス制度、個人事業者の消費税負担はこう変わった
【この記事でわかること】
・令和5年10月のインボイス制度開始で、個人事業者の消費税申告はどれだけ増えたか(国税庁データ)
・免税事業者はどれくらい「課税事業者」に転換したのか
・「2割特例」はいつ終わり、何に置き換わるのか
・仕入税額控除の経過措置(7・5・3割控除)は令和8年度税制改正でどう延長されるのか
「インボイス制度」という言葉を聞いて、なんとなく面倒そうだと感じたまま、内容を詳しく調べていない方も多いのではないでしょうか。
私は元・国税局の職員として、税務の現場でこの制度が動き出す瞬間を見てきました。制度開始から3年が経ち、国税庁が公表したデータには、免税事業者だった多くの個人事業主が「課税事業者」へと切り替わっていった生々しい実態が刻まれています。
そして今、令和8年度の税制改正によって、負担を和らげてきた「2割特例」がいよいよ終わりを迎え、新しい制度に置き換わろうとしています。今回は、国税庁の確定申告状況データと令和8年度税制改正の資料をもとに、インボイス制度が個人事業者の消費税負担をどう変えてきたのか、そしてこれからどう変わっていくのかを整理します。
インボイス開始3年、消費税の申告はこう激変した
国税庁が公表している確定申告状況の報道発表資料を見ると、個人事業者の消費税申告件数は、インボイス制度が始まった令和5年分から3年連続で大きく増加しています。
| 年分 | 申告件数 | 対前年比 | 申告納税額 | 対前年比 |
|---|---|---|---|---|
| 令和4年分(制度開始前) | 105万5千件 | ー | ー | ー |
| 令和5年分(制度開始年) | 197万2千件 | +86.9% | 6,850億円 | +9.1% |
| 令和6年分 | 212万件 | +7.5% | 8,004億円 | +16.8% |
| 令和7年分 | 217万件 | +2.2% | 8,416億円 | +5.1% |
国税庁の報道発表資料には、こう明記されています。
「令和5年10月からインボイス制度が開始されています。これに伴い、令和5年分の個人事業者の消費税の申告件数は、197万2千件(対前年比+86.9%)で、前年分から91万7千件増加しました」(国税庁「令和5年分の所得税等、消費税及び贈与税の確定申告状況等について」nta.go.jp)
令和6年分でも増加傾向は続き、申告件数は212万件(同+7.5%)、申告納税額は8,004億円(同+16.8%)と、件数の伸び以上に納税額が増えているのが特徴です(国税庁「令和6年分の所得税等、消費税及び贈与税の確定申告状況等について」nta.go.jp)。
令和7年分も増加基調が続き、申告件数は217万件(同+2.2%)、申告納税額は8,416億円(同+5.1%)となりました。件数の伸びは鈍化してきたものの、納税額は3年連続の増加です(国税庁「令和7年分の所得税等、消費税及び贈与税の確定申告状況等について」nta.go.jp)。
免税事業者はどれだけ「課税事業者」になったのか
この増加の中心にいるのが、それまで消費税の申告義務がなかった「免税事業者」です。国税庁の資料(nta.go.jp)によると、インボイス制度を機に免税事業者からインボイス発行事業者(課税事業者)になった者は104万8千人にのぼります。このうち期限内に申告した87万5千人の中で、負担軽減策である「2割特例」を適用した申告者は73万4千人、実に83.9%を占めました。
令和6年分では、インボイス発行事業者の申告人員190万7千人のうち、2割特例を適用した人は81万1千人でした(国税庁「令和6年分の所得税等、消費税及び贈与税の確定申告状況等について」nta.go.jp)。
令和7年分では、インボイス発行事業者の登録事業者数は229万1千人、申告人員193万9千人のうち、2割特例を適用した人は81万7千人でした。適用者数そのものは増えていますが、申告人員に占める割合で見ると、令和5年分の83.9%から令和6年分は42.5%、令和7年分は42.1%と、制度開始直後をピークに落ち着いてきていることが分かります(国税庁「令和7年分の所得税等、消費税及び贈与税の確定申告状況等について」nta.go.jp)。
日本商工会議所・東京商工会議所が2025年9月9日に公表した「中小企業におけるインボイス制度等に関する実態調査」でも、同じ傾向が裏付けられています。
| 調査結果 | 数値 |
|---|---|
| 免税事業者(BtoB中心)のインボイス登録実施率 | 78.6% |
| 課税転換した事業者のうち2割特例を適用した割合 | 68.6% |
| 2割特例適用者のうち初回申告がスムーズだった割合 | 92.0% |
| 制度導入によりコスト増を感じている事業者 | 45.8% |
| 制度導入により事務負担増を感じている事業者 | 73.4% |
出典:日本商工会議所「中小企業におけるインボイス制度等に関する実態調査」結果について(2025年9月9日公表、jcci.or.jp)
令和8年度税制改正|「2割特例」は終わり「3割特例」へ
「2割特例」は、インボイス制度を機に免税事業者から課税事業者になった人が対象の激変緩和措置で、納付税額を売上税額の2割に軽減する制度です。適用期間は令和5年(2023年)10月1日から令和8年(2026年)9月30日までと決められており、個人事業者は令和8年分(2026年12月31日)の申告までで終了します。法人は令和8年9月30日を含む課税期間までです。
この終了に伴い、令和8年度税制改正(令和7年12月26日閣議決定)で新設されたのが「3割特例」です。国税庁「令和8年度税制改正特集」には次のように説明されています。
「インボイス発行事業者の登録を受けたことにより免税事業者から課税事業者となった個人事業者に係る令和9年分・令和10年分の消費税の確定申告において、納付税額を売上税額の3割とすることができる特例です」(国税庁「令和8年度税制改正特集」nta.go.jp)
3割特例の主な適用要件は以下のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象者 | 個人事業者のみ(法人は対象外) |
| 適用期間 | 令和9年分・令和10年分(2年間) |
| 納付税額 | 売上税額の3割 |
| 適用要件 | 基準期間(2年前)の課税売上高が1,000万円以下、かつインボイス発行事業者の登録済み |
法人については3割特例の対象外で、2割特例終了後は本則課税または簡易課税での申告に切り替わります。個人事業者も、2割特例・3割特例のいずれの適用を受けた翌課税期間から簡易課税制度へ移行する場合は、届出書の提出期限が緩和される措置もあわせて設けられました。
仕入税額控除の経過措置(7・5・3割控除)も延長される
もう一つ、取引先が免税事業者のままである場合に関わる「仕入税額控除の経過措置」も、令和8年度税制改正で見直されました。この経過措置は、インボイス発行事業者以外(免税事業者など)からの仕入れであっても、一定割合を控除できるというものです。改正前は80%→50%→控除不可という3段階でしたが、改正後は適用期限が2年間延長され、控除割合がより緩やかに引き下げられる「7・5・3割控除」に変わります。
| 適用期間 | 控除可能割合 |
|---|---|
| 〜令和8年(2026年)9月30日 | 80%(現行どおり) |
| 令和8年10月1日〜令和10年(2028年)9月30日 | 70%(新設・延長) |
| 令和10年10月1日〜令和12年(2030年)9月30日 | 50%(新設・延長) |
| 令和12年10月1日〜令和13年(2031年)9月30日 | 30%(新設) |
| 令和13年(2031年)10月1日以降 | 控除不可(0%) |
国税庁「令和8年度税制改正特集」の原文はこうです。
「免税事業者などインボイス発行事業者以外の者から行った課税仕入れにつき、その一定割合を控除できる経過措置について、適用期限を2年間延長した上で、以下のとおり控除可能割合が見直されました」(国税庁「令和8年度税制改正特集」nta.go.jp)
あわせて、この経過措置には控除対象となる課税仕入れの年間上限額も設けられており、1つのインボイス発行事業者以外の者からの課税仕入れ合計額(税込)が年間1億円を超える場合(改正前は10億円)、超えた部分についてはこの経過措置が適用されなくなります。この見直しは令和8年10月1日以後に開始する課税期間から適用されます。
✅ この記事のポイント
- 令和5年分の消費税申告件数は前年比+86.9%、令和6年分212万件・令和7年分217万件とさらに増加が続く(国税庁データ)
- 免税事業者から課税事業者への転換は104万8千人。うち2割特例の適用率は83.9%(令和5年分)
- 「2割特例」は個人事業者は令和8年分まで。その後は「3割特例」(令和9・10年分・売上税額の3割)に移行
- 仕入税額控除の経過措置は2年延長され、80%→70%→50%→30%→0%と段階的に縮小する「7・5・3割控除」に変更
まとめ|インボイス制度は今も変わり続けている
令和5年10月のインボイス制度開始から3年、国税庁のデータは、免税事業者だった多くの個人事業者が課税事業者へと転換し、消費税の申告件数・納税額がともに大きく増加した事実をはっきりと示しています。そして負担を和らげてきた「2割特例」は令和8年分で終わり、個人事業者には新たに「3割特例」という選択肢が用意されました。仕入税額控除の経過措置も、当初の予定より緩やかなスケジュールに見直されています。
制度は一度できあがって終わりではなく、こうして毎年のように手が加えられていきます。「知らないと損をする」のはこういう部分で、自分の事業がどの特例の対象になるのか、いつまで使えるのかを、区切りのタイミングで確認しておく習慣が大切です。
次回は「ふるさと納税、ワンストップ特例と確定申告どちらが得なケースがあるのか」について解説予定です。お楽しみに!


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